第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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と、その瞬間だった。 (おさ)は霊矢が刺さるのも構わずに、首の無い霊体(からだ)を一歩踏み出し、僕の両手をガッと掴んだ。 「……は、離せっ!」 気持ち悪い……! 手首に喰い込む蛇の手は氷のように冷たくて、大量の粘液がヌチャリと音を立てている。 振り払おうにも力が強く、ガッチリ掴んで離れてくれない。 大福が鋭い爪で(おさ)の背中を引き裂くも、それでも無言で剥がれない。 それどころかグィッと両手を引っ張られ、蛇の霊体(からだ)がすぐ目の前に、僅かな隙間は数センチもなく、 『……捕まえた、』 地の底から湧き上がる低い声、ザラつくノイズが耳に不快だ。 手首を掴まれ僕は狂ったように暴れまくった。 だがしかしまったくもって動けない。 喰われるのか、このまま喰われてしまうのか……? そ、そうだ、大福! 「大福逃げて! 今すぐ! 僕が喰われる前に! 早くっ!」 首だけを仰け反らし、愛しい猫又に声を荒げた。 だが猫は逃げようとしない、(おさ)霊体(からだ)を爪で切り裂き、なんとかして僕を助けようとしてくれる。 そうだよな、大福はそういう仔だ。 僕を置いて逃げるなんて出来ない仔なんだ、それならさ。 「あぁぁああっ! 僕、やっぱり死にたくないよ! やだよ! 怖いよ! 助けてぇ! 大福じゃ無理だ! 先代と瀬山さんを呼んできて! 早くっ!!」 泣きながら叫び直すと猫又は、躊躇の後に高く飛んだ。 炎の壁のてっぺん越えで、曇天の向こう側へと消えていく。 良かった……行ってくれた。 これでいい。
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