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と、その瞬間だった。
長は霊矢が刺さるのも構わずに、首の無い霊体を一歩踏み出し、僕の両手をガッと掴んだ。
「……は、離せっ!」
気持ち悪い……!
手首に喰い込む蛇の手は氷のように冷たくて、大量の粘液がヌチャリと音を立てている。
振り払おうにも力が強く、ガッチリ掴んで離れてくれない。
大福が鋭い爪で長の背中を引き裂くも、それでも無言で剥がれない。
それどころかグィッと両手を引っ張られ、蛇の霊体がすぐ目の前に、僅かな隙間は数センチもなく、
『……捕まえた、』
地の底から湧き上がる低い声、ザラつくノイズが耳に不快だ。
手首を掴まれ僕は狂ったように暴れまくった。
だがしかしまったくもって動けない。
喰われるのか、このまま喰われてしまうのか……?
そ、そうだ、大福!
「大福逃げて! 今すぐ! 僕が喰われる前に! 早くっ!」
首だけを仰け反らし、愛しい猫又に声を荒げた。
だが猫は逃げようとしない、長の霊体を爪で切り裂き、なんとかして僕を助けようとしてくれる。
そうだよな、大福はそういう仔だ。
僕を置いて逃げるなんて出来ない仔なんだ、それならさ。
「あぁぁああっ! 僕、やっぱり死にたくないよ! やだよ! 怖いよ! 助けてぇ! 大福じゃ無理だ! 先代と瀬山さんを呼んできて! 早くっ!!」
泣きながら叫び直すと猫又は、躊躇の後に高く飛んだ。
炎の壁のてっぺん越えで、曇天の向こう側へと消えていく。
良かった……行ってくれた。
これでいい。
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