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『岡村と分かり合おうという気はない。そもそも、分かり合う必要もないのだから問題は無い。私はお前を喰らい、希少の霊力と生者の身体を手に入れる。それだけだ。少々無駄話が過ぎたな……ではそろそろ、』
言いたい事を言うだけ言って、長は一層力を込めた。
両手はギリギリと締め上げられて骨が軋む。
「やめろ……離せ……!」
『離す訳がないだろう。機は熟した、邪魔する者はいない。心置きなく喰らうとしよう』
掴まれて動けない。
半分は壊死してる、長の霊体は目の前にある。
『岡村、そういえば言っていたな。「首がなくなても平気なのか」と。問題ないと答えたが、理由までは話さなかった。お前という生者も今日で終わりだ、最後に良いものを視せてやろう、』
「……良いもの? それ絶対良いものじゃないんだろうな。……視たくないけど、嫌だと言っても視せるんだろう? それって一体なに、……え、」
言葉が止まる、目を疑った、さっきからこんなのばっかりだ。
普通の霊体じゃないと言えばそれまでだ、でも、でもさ……!
ブチブチと音を立て、長の胸が裂けていく。
縦に開いた霊体の奥に何かが視えた。
黒っぽく楕円に近い形のそれは小刻みに揺れている。
人の顔くらいの大きさで、だけど瘤に覆われて、これは……これは……蛇の頭だっ!
「うわぁぁぁっ!!」
蛇で編まれた霊体の中に蛇の頭が潜んでたんだ!
赤黒い眼がこちらを視てる、
横一文字の大きな口がパックリ開いて、
その中から更に別の顔が視えてきて、
ああ……! ああ……! ああぁぁぁぁ!
これは、これはさ、
山に来て最初に視た、
深い皺が刻まれて、
眼はギラギラと光ってる、
年老いた、
邪悪な、
”人”の……長だ……!
目が合って胃液が上がる、
負のマトリョーシカは、
頬も額も顎も髪も粘液にまみれている、
その最奥が、蛇の口から生まれるように、外にズルンと飛び出してきて、
『霊矢も猫の爪もご苦労だった。入れ物をどんなに傷付けても致命傷にはならぬ。本体は、此処なのだから』
そう言ってニィィと笑い、僕の鼻先まで近づいて、そして、
『魂から頂こうか、』
長は口を大きく開けた、
その時、ほんの僅かだけど、
僕を掴む手が緩んだ、
今がチャンスだ、逃げるんだ、
そう思うのに、恐怖で身体が震えてしまって、
動きたいのに動けなくって、
気持ちは焦って、
頭の中は真っ白で____
____きっともう駄目だ、
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