第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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恐怖に縛られ動けなくって、もう駄目だと心が負けて、魂と命と、その両方を諦めかけた僕を間一髪で救ったのは、 『うっな゛ーーーーーーーーーーーっ!!!』 逃がしたはずの大福だった。 炎の筒のてっぺんから疾風で降りてきた猫又は、僕の首を後ろ側からガブリと噛むと、足で地を蹴り再び上に高く飛んだ。 不意打ちに(おさ)の手は解け、身体が浮いたと思ったら一瞬で視界が変わる。 あったはずの(おさ)の顔は今では遠く、遥か下で小さくなっていた。 牙を立てずに唇で首を噛む大福は、飛びながら僕を振り上げ(怖っ!)、フワッフワな背中に乗せかえた……のだけど、ひぃぃぃ! 高いぃぃぃ! 地上にいれば風はないけど、空を飛べばビュービューと空気が流れ、高さと風と、溶ける景色はすこぶる早いし、油断をすれば落ちそうだしで、僕は必死にしがみついたんだ。 「だ、大福ぅぅ! もうちょっとゆっくり! ゆっくり飛んでーっ!」 大声で頼み込めば、猫又は気持ち速度を落としてくれた。 が、僕は生者で普段空は飛ばないし(てか飛べない)、ハンググライダーもバンジージャンプもした事ないし、初めての高い景色にパニック状態だった。 そりゃあもうテンパって、さっきまでの絶望は”大福コースター”に上書きされる。 そうなると言いたいのはこれだ。 「ちょ、ちょっとー! なんで戻ってきたのよー!」 風の音で声が消されそうになるのを頑張って音量を上げてみた。 それを聞いた大福も大声で、 『うっなーーー! うななななな! にゃごにゃごにゃごーーっ!』 「えぇーー!? 最初から逃げる気はなかったってー!? (おさ)を油断させて助けるタイミングを計ってたのー!?」 『うーななー! にゃふにゃふにゃふ……ウニャリ』 ”そうだにゃー! 作戦通り……ニヤリ(悪そうに)” なんて言っている。 ああん、もー、せっかく逃がしたってのにぃ。 まったくもって言うコトなんか聞きやしない、困った猫又だ。
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