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笑っていた中村さんが表情を変えた。
ほんのり嬉しそうに、深く淋しそうに、そんな気持ちが混ぜこぜで、複雑な顔になる。
そしてしゃがんで、積もった文字を手で掻き回し、他の人が読めないようにした。
みんなは僕の”片想いシリーズ”に夢中だから、”みんなを滅したくない”という文は読んでいない。
中村さんは少し黙り、息を吸い、小さな声で言ったんだ。
『岡村……我々を滅したくないと想ってくれるのか。ありがとう、その気持ちだけで充分に救われる。だが、他の奴等には知られない方が良い。その時が近づけば……決心が鈍るかもしれないからな、』
なんでもない事を話すように。
いぶし銀は歯を視せて笑う。
だが眉はハの字で困り顔だ。
「あの……ごめんなさい。僕ね、ちゃんとみんなを送ろうとは思ってるんです。だけど奥底で、どうにかならないのかなって、どうしても考えちゃって……ごめんなさい。中村さんは知ってしまった。決心、鈍りましたか……?」
ああ、やだな。
こんな事、聞きたくないよ。
叶うなら、滅したくない。
でも……でもね、これはどうにもならない事なんだ。
悪霊は、遅かれ早かれ【闇の道】に捕らわれる。
前に視た事があるけれど、あんなのに乗せるくらいなら、僕が滅した方がまだマシだ。
みんなは根っからの悪霊じゃない。
そうりゃあ悪い事をした加害者だけど、同時に被害者でもあるんだ。
散々長に苦しめられて、もうこれ以上、苦しませたくないんだよ。
中村さんは大きく首を振り、
『私は大丈夫だ。何を聞いても、何を視ても鈍ったりしない。自分の罪は自分が一番分かっているからな。………………ただ、翔だけは不憫でならない。奴はまだ子供で純粋だ。犯した罪に誰よりも苦しめられてきた。もし……もし、あの子だけでも救う事が出来るなら____ああ……いや……すまない。今のは忘れてくれ。世の中には出来る事と出来ない事がある。翔だけを逃しても、いずれ黄泉から裁きを受けるだろう。その時、我々も岡村もいない、たった一人で【闇の道】に捕らわれるくらいなら……此処で運命を共にした方が良いんだ、』
そう言って顔をクシャリと歪ませて、優しく笑った。
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