第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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近い距離で向かい合い、小声で僕らは話しているけど、後ろからはみんなの楽しそうな声が聞こえる。 僕の恋にあーだこーだと言ってるんだ。 中村さんはそんなみんなを視て、呆れたようにため息をついた。 『すまんな。みんなお前が好きなんだ。だから気になってしまうのだろう。悪気はないのだ、許してやってくれ』 「あ……はい。悪気がないのはわかります。ちょっと恥ずかしいけど、いや、かなり恥ずかしいけど、……ぐは。えと、その、僕、ダイジョブデス」 もういいの。 ヘタレな恋を笑ってくれ。 片想いはホントだもん、僕、開き直っちゃうんだから。 そうそう、笑って、もっと笑って。 みんなに残された時間は長くない。 だったらさ、なるべく笑顔でいてほしいよ。 中村さんは微かに口角を上げ、僕の頭をガシガシ撫ぜた。 そしてみんなに向かって大きな声を上げた。 『こら! お前達いつまでも笑うな! いいじゃないか片想い! たとえ想いが届かなくても、たとえ死ぬまで片想いでも、人を好きになるのは素晴らしい。そう、たとえ報われなくてもだ!』 え……ちょ……中村さん、何気に容赦無くないか? や、そりゃそうだけど、わかっちゃいるけど、 『そっと応援してやれ。この先もしかしたら奇跡が起きて……いや、無理か。弥生さんは人の妻だと言っていたものな』 ぐは、ひでぶ。 だから、もう、ストレートに無理とか言わないで、 オブラート、オブラートに包んでください、 『まったく……岡村にも困ったものだ。なにもそんな所まで(・・・・・・)持丸を見習う事はないだろうに、』 え? 先代を見習うって、どういう意味? 先代も誰かに片想いをしていたの? それでずっと独身だったの? き、気になるっ! ハッキリ言って、(おさ)なんかより全然気になっちゃうんだけど! 「中村さん、それってどういう意味ですか? 先代に好きな人がいたってコト? ずっと片想いだったの? 報われない系の恋だったの?」 (ここ)に来てから一番のやる気を視せて、中村さんに詰め寄るも答えてはくれなかった。 『……ああ……っと、しまった……ウッカリ口が滑ってしまった。すまない、岡村。持丸のプラーベートだからな、これ以上は話せない。いつか本人に聞いてくれ。 そんな事より第1班、第2班、第3班! 急いで霊体(からだ)を温めろ! (おさ)は火柱の向こうにいる。こちらから攻めに行くぞ!』 答えの代わりに気合が入った。 中村さんが不敵に笑う。 入れ替わるかのように、みんなは笑うのをやめた。 それぞれが印を結んで、慣れた武器を構築し…… おそらく次が、最後の戦いになる。
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