第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『炎は俺にまかせろ、』 片眉をクイと上げて、咥えタバコで前に出たのは大上さんだ。 享年32才、この中では若い方のガンマニア。 ルーズに切られた髪の毛は、長くもないが短くもない。 細身の霊体(からだ)の高身長で、口元はいつだって笑っているけど、一重の吊り目は黙っていると圧がある。 ”瀬山の制服”をカッコよく着崩して、炎の前で仁王立ち。 ”ワイルド”ってこの(ひと)の為にあるコトバなんじゃないかと思うくらいだ。 口の端からタバコの煙を吐き出しながら、鼻歌交じりに構えをとった。 地面とほぼ平行に、上げた両手は段違いで高さが異なる。 一見細いだけに視える両腕の、一番先に黒光りするナニかが視えた。 あれは……ああ、やっぱりそうだよな。 大上さんと言えば拳銃だもん。 握っているのは自慢のデザートイーグルで、リアルを無視した改造品を左右両手に一丁ずつ、いわゆる二丁拳銃というヤツだ。 『おまえら少し下がってろ』 クールにキメたガンマンがそう言うと、みんなは一斉に走り出した。 大上さんから離れようと必死になって、僕も大福もそれにならう。 「大上さんはナニする気なの? 炎に銃を撃ったって消えないと思うけど!」 走りながらまわりのみんなに聞いてみた。 すると杉野さんが、それに答えた。 『言ったろ? 奴はなにかにつけちゃあ銃を撃つ! なんでも銃で解決出来ると思ってるんだ! ま、大抵本当にそうなるがな!』 なんでも銃で解決? いや待て、ナニそれ、ツッコミどころが山盛りすぎる! 確かに威力は凄かった、さっき撃ったの視たけどさ、爆発炎上してたもの! でもさ今回炎だよ? 火だし! 物体じゃないし! 撃ったところですり抜けるじゃーん! さすがに、それは、HAHAHA、……なんて。 半笑いでいられたのは、僅か数分だけだった。 走る僕らの背後から、聞こえてきたのは発砲音____と、セットで謎の音。 ダンッ!! ゴオオォッ!! 『始まった!』 (かける)君の弾む声、だがそれを轟音が掻き消した。 音を合図に立ち止まって振り向けば、燃え盛る炎の壁は砂塵にまみれて姿を乱し、右に左に斜めに上下に、激しく大きく揺れている。 なんで? どうして? リアルを無視した改造は、炎さえも撃つと言うのか? そんなバカなと目を凝らしてよく視れば、銃口は炎には向いてなく、斜め下を向いていた。 なんで下? 何を撃ってる? ダンッ!! ゴオオォッ!! 撃つたびに砂塵が上がった。 強い風が地から天へと吹き上がり、砂も小石も強制的に巻き込んて……いや、巻き込んでるのはそれだけじゃない、炎もだ。 (おさ)の火壁は下から風をまともに受けていた。 火に風が加われば、普通は火力が増すはずなんだ。 でも増さない。 風のチカラが強すぎるのと、連続で吹く風が、火の勢いを殺すからだ。 「炎を吹き消す気なんだ、」 独り言ちてよくよく視れば、銃は地面を撃っていた。 二丁拳銃で何十発も、撃って撃って撃ちまくる。 撃った弾の衝撃は、爆風を引き起こす。 その爆風が炎を消しにかかっていた。
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