第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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空気を読まないガンマンが、1人で”ひゃっひゃ”と笑っていた。 (おさ)はダンマリ、相当苛ついているのが分かる。 ヤバイな……ガチギレ必至、怒りにまかせて喰らいに来るに決まってる。 もう僕の鎖じゃ助けてあげられないんだ。 話したい事があるのはわかるけど、心配でたまらない。 大上さんは両手に持った拳銃を、クルクル回して遊ばせながら、軽い感じで話を始めた。 『なんだよ、無反応? 淋しいじゃねぇか。俺みたいなバリ日本人がハリウッドスター名乗ったんだ。笑うなり突っ込むなり、なんかないのか? って、ないか。アンタの頭の中は”瀬山の家”でいっぱいだもんな。もうとっくに死んでるのに執着しすぎだ。しかも俺ら巻き込みやがって。執着するなら一人でしてりゃあ良かったんだよ。お前の連れション(・・・・・)に付き合わせるな、イイオトナなんだから便所くらい1人で行け』 挑発的だ。 言葉のすべてに棘があり、大嫌いが溢れてる。 (おさ)は黙って宙に浮いてるけど、いつ怒り出しても不思議じゃない。 視ていて胃が痛くなる。 『話がしたいと言ったけど、アンタに対する恨み辛みを全部言うには、とてもじゃないけど時間が足らない、それにそんな気分じゃない。あのな、俺は今、最高にゴキゲンなんだ。アンタにビビッてクソ悪霊になり果てた俺達に、スゲェ奇跡が起きたんだからな、』 楽し気な大上さんが僕を視て、そして目が合った。 ガンマンはニヤっと笑うと、すぐに(おさ)に向き直る。 『奇跡とは岡村の事だよ。霊視も出来ない希少の子は、とんでもないチカラを持っていた。俺達の為に泣いて怒って戦って、一生懸命守ってくれた。岡村の優しさが、クソ悪霊から人に戻してくれたんだ。仲間と一緒に向かう相手が罪のない生者じゃなくて、アンタだって事がたまらなく幸せだ。アンタの命令はもう聞かない。俺は俺の頭で考えて、俺の判断で引き金を引く、』 ジャキッ! 言ったが早いか大上さんは、重くて鈍い音をさせながら、銃を(おさ)に突き付けた。 二丁拳銃、右も左もどっちもだ。 同時、こちらにいる森木さんが足を踏み込み、薙刀を槍投げの要領で投げた。 薙刀は速度を持って宙を飛び、放物線の終着点、(おさ)の頭に斜めに刺さる。 長い柄は(おさ)を貫通、刃先は地中の深くに埋まり……まるで晒し首のように、(おさ)はその場に固定された。 大上さんは(おさ)を視たまま軽く手を上げ、森木さんに感謝の意を表す。 そして薙刀刺さる傷口を、じっくりと視て、 『もう修復液も出ないのか、』 そう呟いた。 額に付けた銃口を、グイィと強くめり込ますも、(おさ)は動じなかった。 頭の蛇を泳がせながら皺の顔を歪ませる。 黒いはずの瞳の色は白濁気味で、表情は読みにくいけど、多分あれは笑ってる。 だって口角が上がってるもの。 口元は大袈裟なくらい極端な三日月を造っていた。
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