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長はただ大上さんを視るだけで黙り込む。
形成逆転。
喰らうと言えば、震えあがった部下はもういない。
駒だ、虫けらだ、消耗品だと散々下に視てたのに、今、その下の者に魂を握られている。
元暴君は、現世に留まり50年だ。
自力のみでの霊体の維持は、とっくに出来なくなっている。
故にこれまで喰らい続けた。
他人の霊力を奪い取り、そのすべてを長自身に使っていたのだ。
だが今、長にとってのエネルギー源は絶たれ、既存の霊力は削りに削られ残りも僅か。
頭のみの小さな霊体は薙刀で固定され、逃げる事も叶わない。
恐怖に顔を歪ませたっておかしくない状況だ。
なのに____長はまだ笑っていた。
何か勝算があるのだろうか。
それとも無意味なプライドだろうか。
わからないけど、不気味な笑みは張り付いたままだった。
大上さんが僕らを呼んだ。
翔君は『これでやっと……』と呟きながら、肩を震わせている。
他のみんなも押し黙り、だけど興奮は隠せなくって、変に足音がデカかった。
『悪いな。俺がどれだけゴキゲンなのか、それだけ言うつもりでいたんだ。長は人の楽しい話が大嫌いだから、聞かせてやれと思ってさ。だけど、顔を視てたらムカついて、勢いが止まらなくなっちまった』
銃口を当てながら、長から目線を外さない大上さんがそう言って謝った。
中村さんはそれを受け、大きく首を振る。
『いいんだ、大上。よくやってくれた。途中色々あったが現時点で負傷者ゼロ、全員で追い詰めたんだ。最後の一撃は誰が撃っても、皆で滅したに等しい』
僕を含む全員に囲まれる長は、うんと年寄りに視えた。
心なしか頭に生える蛇達も萎れてる。
動きが鈍いし、目は濁った赤で光もない。
霊力、本当に残り僅かなんだな。
翔君じゃないけど、やっとだ。
ここまで長かった。
でも……最期まで、特に僕は油断したら駄目だ。
頭しかないし、その頭は薙刀で固定されてるし、二丁拳銃は火を噴く寸前だし、大丈夫だとは思うけど、ここで僕が長に乗っ取られたら、みんなの頑張りが無駄になる。
それだけじゃない、僕の霊力は僕から離れ、みんなを傷付けるだろう。
そんな事、絶対にさせない。
気を引き締めて長を視た。
いよいよだ、これが最後だ、滅したら、それを視届けたら、次は____
考えると気持ちが沈む。
長に勝つのは嬉しいけど、でも。
『岡村……、』
不意に名前を呼ばれた。
さっきまで笑っていたはずなのに、絶望を色濃く浮かべた長が僕を視る。
「……なんですか?」
話す事なんてない、だから無視しても良かったんだ。
なのに返事をしてしまった。
みんなは長と僕を交互に視る。
『お前に頼みたい事がある』
「頼みたい事……?」
まさかこの期に及んで、魂を喰わせろだの身体を寄越せとかじゃないよね?
そんな願いなら聞けないよ、ううん、どんな願いだって聞く気はない。
そう思っていたのに。
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