第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

201/267
前へ
/2550ページ
次へ
(おさ)はただ大上さんを視るだけで黙り込む。 形成逆転。 喰らうと言えば、震えあがった部下はもういない。 駒だ、虫けらだ、消耗品だと散々下に視てたのに、今、その下の者に魂を握られている。 元暴君は、現世に留まり50年だ。 自力のみでの霊体(からだ)の維持は、とっくに出来なくなっている。 故にこれまで喰らい続けた。 他人の霊力(ちから)を奪い取り、そのすべてを(おさ)自身に使っていたのだ。 だが今、(おさ)にとってのエネルギー源は絶たれ、既存の霊力(ちから)は削りに削られ残りも僅か。 頭のみの小さな霊体(からだ)は薙刀で固定され、逃げる事も叶わない。 恐怖に顔を歪ませたっておかしくない状況だ。 なのに____(おさ)はまだ笑っていた。 何か勝算があるのだろうか。 それとも無意味なプライドだろうか。 わからないけど、不気味な笑みは張り付いたままだった。 大上さんが僕らを呼んだ。 (かける)君は『これでやっと……』と呟きながら、肩を震わせている。 他のみんなも押し黙り、だけど興奮は隠せなくって、変に足音がデカかった。 『悪いな。俺がどれだけゴキゲンなのか、それだけ言うつもりでいたんだ。(コイツ)は人の楽しい話が大嫌いだから、聞かせてやれと思ってさ。だけど、顔を視てたらムカついて、勢いが止まらなくなっちまった』 銃口を当てながら、(おさ)から目線を外さない大上さんがそう言って謝った。 中村さんはそれを受け、大きく首を振る。 『いいんだ、大上。よくやってくれた。途中色々あったが現時点で負傷者ゼロ、全員で追い詰めたんだ。最後の一撃は誰が撃っても、皆で滅したに等しい』 僕を含む全員に囲まれる(おさ)は、うんと年寄りに視えた。 心なしか頭に生える蛇達も萎れてる。 動きが鈍いし、目は濁った赤で光もない。 霊力(ちから)、本当に残り僅かなんだな。 (かける)君じゃないけど、やっとだ。 ここまで長かった。 でも……最期まで、特に僕は油断したら駄目だ。 頭しかないし、その頭は薙刀で固定されてるし、二丁拳銃は火を噴く寸前だし、大丈夫だとは思うけど、ここで僕が(おさ)に乗っ取られたら、みんなの頑張りが無駄になる。 それだけじゃない、僕の霊力(ちから)は僕から離れ、みんなを傷付けるだろう。 そんな事、絶対にさせない。 気を引き締めて(おさ)を視た。 いよいよだ、これが最後だ、滅したら、それを視届けたら、次は____ 考えると気持ちが沈む。 (おさ)に勝つのは嬉しいけど、でも。 『岡村……、』 不意に名前を呼ばれた。 さっきまで笑っていたはずなのに、絶望を色濃く浮かべた(おさ)が僕を視る。 「……なんですか?」 話す事なんてない、だから無視しても良かったんだ。 なのに返事をしてしまった。 みんなは(おさ)と僕を交互に視る。 『お前に頼みたい事がある』 「頼みたい事……?」 まさかこの期に及んで、魂を喰わせろだの身体を寄越せとかじゃないよね? そんな願いなら聞けないよ、ううん、どんな願いだって聞く気はない。 そう思っていたのに。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加