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みんなは口を閉じたまま考え込んでいた。
お互いに顔を見合わせ、眉を下げている。
やがて、僕らの中で最年長、中村さんが静かな声で言ったんだ。
『……まったく、これだから新人は。悪霊の怖さを分かっていない。どんなにしおらしくなったところで所詮は悪霊。いつ手のひらを返されてもおかしくないのだ。甘い、甘すぎる。…………だが、岡村のその甘さが我々を救ったのも事実。いいさ、お前の好きにしろ。これも勉強だ____』
中村さんは印を結ぶと上げた両手を振り下ろす。
直後、大きな剣が出現し、二刀流の刃の先を長の顔に突き付けた。
『だが言っておく。長に謝罪の意など無い。不本意ながら長い付き合いだ、我々にはそれが分かる。助かりたい一心でお前に付け込もうとしてるのだ。
翔の言う通りだよ、岡村は人を信じすぎる。だがそれも性格だ。そのせいで痛い目に遭うまでは、変える事は出来ないだろう。だったら、今学べ。我々を使ってな』
厳しくも優しい目だった。
ジィッと僕を視つめてる。
僕の喉は乾いてしまって、張り付いてしまいそう。
それでもなんとかして声を出し、聞きたい事を聞いてみたんだ。
「”我々を使って”……というのは、どういう意味ですか……?」
『…………我々は罪人だ。偉そうに長を滅そうとしているが、我々だって、本来は滅される側の悪霊だ。だが……お前は我々を人として扱い、そして信じてくれた。本当に救われたよ。お前には恩がある。お前を守る為ならどんな事でもする。…………お前が、長の言う、”謝罪したい”という言葉を信じ、話を聞くというのなら好きにしたらいい。但し、長が手のひらを返したら、我々が岡村の盾になる。霊力は残り僅かだろうが、自爆覚悟で来られたら……正直難航するかもしれん』
中村さんの話を聞いてみんなが動いた。
長のまわりを狭くグルリと輪になって、使い慣れた各武器をおんなじように突き付ける。
僕は目だけでみんなを追った。
その中には翔君もいて、『そういう事なら俺だって』と意気込んでいる。
鼻の奥がズキズキ痛む、声が上ずりそうになる。
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