第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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いよいよだ。 みんなの顔つきが変わった。 グルリと狭く取り囲み、(おさ)に向かって隙無く武器を突きつける。 極近の全包囲、 絶対に外さない、 撃つは一瞬、 (おさ)を滅する、 これですべてが終わるんだ、 輪の中心では、(おさ)が黙り込んでいた。 さすがに観念したのだろうか? 目を伏せて、口も閉じて、頭の蛇も(こうべ)をダラリと垂れていた。 緊張が走る中、中村さんがカウントを取り始めた。 ”5”から下がって、最後の”0”で撃つ。 『____5、』 長かったな、やっとだな、 『____4、』 (かける)君が歯を食い縛って泣いている。 辛かったよね、悔しかったよね、キミは本当に素直な良い子。 僕に兄弟はいないけど、弟だったら良いのになって本気で思うよ。 『____3、』 大人達はさすがだよ。 思う所はたくさんあるはず、それでも涙は視せずに鋭い顔だ。 でもきっと、すべてが終われば泣くんだろうな。 『____2、』 中村さん、……僕にはね、たくさんの師匠がいるんだ。 先代、瀬山さん、おくりびのみんなに大福もそう。 もう一人、大事な師匠が増えてしまった。 ありがたいな、感謝だな。 出来れば、この先もっと色々教えてほしかったな。 『____1、』 (おさ)……瀬山さんのお父さん。 損得だけが物差しで、愛情を理解出来ずに否定する。 僕がこの(ひと)と分かり合う事はないのだろう……あ、 今、……(おさ)と目が合った、 伏せていたはずなのに、 白濁の皺の目が僕を捉えて離さない、 なんだ? …………何か……言ってる?  口が、(おさ)の口がゆっくりと動く、 声は無く、 何を言っているのか、 それが何なのかが知りたくて、 ほんの少し身を乗り出して、 その口を、 あの口を、 ジッと視つめて、 シュッ、 何かが飛んできた。 とても小さな何かだ。 早くて何かは分からなかった、____でも。 「……痛っ」 首に鋭い痛みが走った。 途端、ジンジンと熱を持ち、痛いのか熱いのかわからなくなる。 グラリと視界が回る。 カウントゼロまであと一つ。 それなのに何が起きた? 意識が急激に薄くなる。 遠くから声が聞こえる。 ____岡村っ……しっかりしろ……なにがあった…… ____これは……蛇……小蛇が残ってた……岡村を噛んだんだ…… ____大橋と……近藤……岡村を視ろ…… ____他の者は(コイツ)を……絶対に逃がすな…… ____だが滅するなよ……滅すれば岡村が…… みんなの怒鳴り声、(かける)君の泣き叫ぶ声、 耳の中がワンワンして、すごく頭に響くんだ、 その頭の端の方で、やけにはっきりとした声が聞こえた、 その声は低くて、ザラついて、不愉快で、 『岡村、……捕まえた、』 (おさ)の声だった。
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