第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

207/267
前へ
/2550ページ
次へ
◆ 薄い意識の中を彷徨っていた。 身体がダルくて目が開かない。 閉じた目には何も映らないというのに、頭がグルグル回ってる。 回転性の眩暈だ。 まるで船酔いみたいでキモチワルイ。 あれ……僕……どうしたんだっけ? 確か……カウントの途中だったはず……(おさ)をみんなで滅そうと、武器を構えてたんだ。 それで……? ああ……そうだ、カウントもあと一つとなった所で……何かに、いや……(おさ)の小蛇に首を噛まれた。 それから……意識が遠のいて……みんなの怒鳴り声と……(かける)君の泣き声が聞こえて……あと……(おさ)の声が……頭の中に直接聞こえたんだ。 (おさ)は僕に『捕まえた』と言っていた。 捕まえたって……どういう事? 僕は小蛇に噛まれたけど、こうして今、自我を持ってる。 という事は魂を喰われたんじゃないのだろう。 小蛇には毒があるけれど、(おさ)は僕を傷付けられない。 だから大丈夫なはずなんだ……眩暈はするけど、身体はやけにダルいけど。 …… …………ちゃん、 ………………えい…… ……………………えいみ……ちゃん、 誰かが……僕を呼んでいる? 身体を揺さぶられ、眩暈の頭が更に回って吐き気を催す……が、気持ち悪いはずなのに、僕の胸はバクバクと躍り出し、それどころではなくなった。 「エイミーちゃん、大丈夫か? しっかりしろ」 心配そうな色を帯び、僕の名前を何度も呼ぶのは、酒に焼けたハスキーボイス。 出来る事なら毎日だって聞きたい声だ。 僕は気持ち悪いのを我慢して、気合を入れて目を開けた。 「あ、目ぇ覚ましたっ!」 僕の顔を覗き込む、猫のような大きな目と視線が合った。 やわらかそうな白い肌、通った鼻に、グロスの塗られた艶の唇。 華奢な肩は儚げで、いつもの黒いワンピース。 伸びかけの短い髪が僕に向かって垂れていて…… 「…………弥生さん、……どうして?」 頭が混乱する。 驚きと喜びと胸の高鳴り。 いるはずのない好きな人が「良かった……」と大きく息を吐いていた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加