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弥生さんが真面目な顔になる。
ソファの上で身を乗り出して僕を見て、そして質問に答えてくれた。
「長って、瀬山さんの父親だろ? 大丈夫、残った奴らが滅したよ。大福は先代と一緒だ」
奴ら……、みんなの事を言ってるんだな。
ああ、でも良かった……ちゃんと滅してくれたんだ……それが本当に気がかりだった。
最後のギリギリで僕がヘマをして、僕のせいで台無しになったらと思うと、申し訳なくて心臓が壊れてしまいそうだったんだ。
「それとな、その後の事なんだけど、奴らは先代と瀬山さんが無事に滅した。エイミーちゃんの意識が戻らなくて、戻るまで待とうとしたらしいんだけど……長を滅して自由になって、もしかしたら奴ら、『やっぱり滅されたくない』なんて言い出すかもしれないだろう? ……エイミーちゃんには辛いかもしれないけど、奴らがもし悪霊に戻ってしまったら、そっちの方がもっと辛い。……これで良かったんだ」
弥生さんは言いにくそうだった。
僕はそれを聞いて、少なからずショックを受けた。
苦境を一緒に乗り越えたみんなだもの。
最期は僕が心を込めて解放したかった。
せーので笑いたかったし、一人一人に話したい事もあった。
責任を持って送り出したかった。
涙が一気に込み上げる。
意識のない間に色々あったのかもしれない。
だけど、もう少しだけ待っていてほしかったよ。
それと……
「弥生さん、教えてくれてありがとう。そっか……先代達が、解放してくれたんだ。良かった、と言って良いんだろうな。……うん、そうだよね。
あと……あのね、弥生さんは、その、みんなと会った事がないからさ、仕方ないんだけど……一つだけ、みんなの名誉の為にも、誤解を解いておきたい事があるんだ。長を滅したみんなは悪霊じゃない、英雄だ。確かに彼らは”元悪霊達”だったかもしれない。でもね、”元”なの。長を滅して自由になっても、悪霊になんて絶対に戻らない。僕が保障する、」
わざわざこんな事、言わなくても良かったかな。
だって弥生さんは、知らないんだもの。
悪気はないんだ。
でも……”悪霊に戻るかもしれない人達”と思われたままにしたくなかった。
だって、みんなボロボロになりながら戦ったんだ。
長は本当にしつこくて、戦いは難航して、それでも必死になって頑張って、途中もうダメだと思う事もあった。
けど諦めなかったよ。
それは自分達の為であり、今後、長に悪い事をさせない為であり、……そこに”自由になったら悪霊に戻って好き勝手にやる”という選択肢はない。
そんな可能性もある、なんて少しでも思われる事がどうしても、そう、どうしても嫌だった。
「そか……ごめんな。アタシ、無神経なコト言った」
「ううん、いいんだ。だって知らないんだもの。でもね、弥生さんもみんなに会ったら、きっと同じ事言うと思う」
「……うん、エイミーちゃんが言うならそうなんだろうな」
弥生さんはそう言うとニコッと笑った。
その笑顔に僕は倒れそうになる。
やっぱりこの人は可愛いや。
見た目も、それから、こうやって素直な所も。
眩しい笑顔にやられそうになりながら、僕は平静を装った。
ベッドの上で布団の端をこねくり回して気持ちを落ち着ける。
改めて弥生さんと目が合った。
彼女はまたへにゃりと笑い、そしてそのあと……悲しそうな顔をしたんだ。
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