第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

210/267
前へ
/2550ページ
次へ
「弥生さん……どうしたの? ……あ、ごめん、疲れちゃった? 現場が終わって、そのまま僕の面倒見る事になっちゃったんだもんね。ごめん、僕はもう大丈夫。起きるからベッドで横になってよ。僕が使った後で悪いけど、」 言いながらベッドから降りようとした。 けど弥生さんがそれを止めた。 「大丈夫、疲れてないよ。知ってるだろ? アタシ、体力オバケだからさ。どんなに動いても疲れないんだ」 「た、確かに。弥生さん、タフだもんね」 「エイミーちゃんこそ無理しないで、まだゴロゴロしてな。あとでご飯を食べに行こう。大丈夫、ホテル代もご飯代も、ぜーーんぶ今回会社持ちだ! お高いお店に行こうぜ! ほら……その……エイミーちゃんがいない間に色々終わってて……落ち込んでるんだろ? そんな感じがしたからさ、」 「あ……うん。ありがとう。正直ショックだった。最後にみんなに会いたかったからさ。……な、なんかごめんね。弥生さん、今の僕といると気詰まりだよね。も、もう大丈夫、多分。落ち込むのは家に帰ってからにする。だからさ、さっき言ってた、その、お高いお店に行こう! おいしいものを食べるんだ。あ、でも僕、泥だらけのジャージ上下なんだけど。こんな格好でお高いお店入れない……」 これじゃあ、弥生さんにまで恥ずかしい思いをさせちゃうよ。 お高いお店は諦めるしかないかな。 「あーそーだなー。んじゃあさ、服も買っちゃえ! すっとぼけて服の領収書も提出しちゃえばさ、ユリちゃん優しいから、なんとかしてくれるよ」 「な、な、なんてコトを……! でも良い考え……ちょっと良い服買っちゃおっかな」 調子に乗って冗談を言ってみる。 僕と弥生さんは顔を見合わせて笑ってしまった。 笑った後、ふと目を伏せた弥生さんは、また淋し気な表情になった。 「弥生さん……なにかあった? なんかヘンだよ」 気になって聞いてみる。 すると、 「やぁ……ごめん。エイミーちゃん、体調悪いのに気ぃ遣わせちゃった。あのね、……ん……最近少し悩んでてさ。……ジャッキーとマジョリカの事で、」 弥生さんは2人の名前を出した途端、唇を噛んだ。 どうしたのかな、ケンカでもしたのかな。 「ジャッキーさんとマジョリカさんがどうしたの?」 「……ああ、うん。アタシ、やっぱりあの2人にはついていけない。……もう別れたいなぁって思ってるんだ。あはは、笑っていいよ。あんなに大騒ぎしたクセにな」 あははと笑った弥生さんは、ちっとも笑っていなかった。 両目から、涙がつぅと流れ落ちる。 それを見た時、僕は思わずベッドから飛び降りた。 そしてソファの前で膝を着き、 「なにがあったの?」 そう聞いていた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加