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信じられない……
弥生さんはジャッキーさんが大好きで、7年も想い続けてきたんだ。
なのに僕なんかを好きになるはずがない。
でも……僕を必要としてくれるんだと、信じたい気持ちが膨れ上がる。
ただ……分かってる。
僕に対する弥生さんの気持ちは恋じゃない、ただの逃げ場だ。
今が辛くて僕に逃げようとしてるだけ。
でもね、逃げ場だってかまわない。
辛い時に僕を思い出してくれたんだ。
よくぞ逃げ場に選んでくれたと感謝すらしてしまう。
「……エイミーちゃん、」
ボロボロと泣きながら、弥生さんは僕の目をジッと見た。
瞳は深くて綺麗な宝石みたいで……吸い込まれそうになる。
ジャッキーさんは、この目にずっと見つめられてきたんだな。
そう思った途端、嫉妬心が湧き上がった。
今まで僕が嫉妬らしいものをしなかったのは、弥生さんの愛情はいつだってジャッキーさんに向いていたからだ。
”ジャッキーが好き”、そう呟く弥生さんが本当に幸せそうで、たとえ僕がさせたんじゃなくても、こんな顔をしてくれるだけで僕が幸せだった。
だから、弥生さんがジャッキーさんを好きでいる限り、嫉妬を通り越す事が出来たんだ。
でも、でもさ、弥生さんを泣かせるなら、不安にさせるなら、本人が僕に逃げたいと言うのなら、僕はもう気持ちを隠さない。
「弥生さん……そんなに辛い? いいよ、それなら逃げておいで。僕がずっと一緒にいる。一生、生きてる間も死んだ後も、アナタだけを見て、アナタだけを大事にして、アナタだけを好きでいる。アナタが嫌がる事はしないし、アナタの為ならなんだってする。アナタは僕に何をしたってかまわない、気持ちは永遠に変わらない、アナタが僕を必要ないと言うまで傍にいるから」
手を、床につけていた手を、おずおずと伸ばしてみる。
弥生さんに触れてみたくて……ああ、もちろん、変な事はしないよ。
ただ少しだけ、柔らかそうな頬に触れたいと、そう欲張ったんだ。
爪先が頬を掠める。
弥生さんは潤んだ目で僕を見てて、頬を触るくらいきっと拒否はされなそうだ。
だって微笑んでる。
それでも照れてしまって、中々触れなくって、そんな僕を見て、弥生さんの口角がグイと、急な角度で上がったんだ。
え……? そんな笑い方、初めて見たよ。
いつもはもっと柔らかく微笑むか、それか大きな口で豪快に笑うのに。
「……エイミーちゃん、嬉しいよ。アタシと一緒にいてくれるんでしょ? もう限界、ジャッキーもマジョリカも大嫌い、あの家にも帰りたくない、」
涙を流しながら、辛いのと訴える。
僕はそんな弥生さんの口元に釘付けで、いまだ頬に触れられない。
「ねぇ、明日からエイミーちゃんのアパートに住みたいよ。いい?」
ああ、とかなんとか。
僕はなんとなく釈然としなくって、曖昧に空気みたいな返事をした。
「なんか嫌そう……ダメなの? ごめんね、本当はさ、ちゃんとジャッキーと別れてからが良いよね。でもやなの、かといって行くとこもないの。だからお願いします。どうしてもダメなら……水渦にでも頼むしかないけど、でも、アタシ、やっぱりエイミーちゃんと一緒にいたいよ」
……ん?
“お願いします”?
“水渦にでも頼む”?
……
…………んん?
………………んんんー?
僕が返事もせずに黙っていると、弥生さんはソファから身を乗り出して、
「…………だって、エイミーちゃんのコト、本気で好きになっちゃったんだもの」
そう言って、頬を赤く染めたんだ。
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