第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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信じられない…… 弥生さんはジャッキーさんが大好きで、7年も想い続けてきたんだ。 なのに僕なんかを好きになるはずがない。 でも……僕を必要としてくれるんだと、信じたい気持ちが膨れ上がる。 ただ……分かってる。 僕に対する弥生さんの気持ちは恋じゃない、ただの逃げ場だ。 今が辛くて僕に逃げようとしてるだけ。 でもね、逃げ場だってかまわない。 辛い時に僕を思い出してくれたんだ。 よくぞ逃げ場に選んでくれたと感謝すらしてしまう。 「……エイミーちゃん、」 ボロボロと泣きながら、弥生さんは僕の目をジッと見た。 瞳は深くて綺麗な宝石みたいで……吸い込まれそうになる。 ジャッキーさんは、この目にずっと見つめられてきたんだな。 そう思った途端、嫉妬心が湧き上がった。 今まで僕が嫉妬らしいものをしなかったのは、弥生さんの愛情はいつだってジャッキーさんに向いていたからだ。 ”ジャッキーが好き”、そう呟く弥生さんが本当に幸せそうで、たとえ僕がさせたんじゃなくても、こんな顔をしてくれるだけで僕が幸せだった(・・・・・・・)。 だから、弥生さんがジャッキーさんを好きでいる限り、嫉妬を通り越す事が出来たんだ。 でも、でもさ、弥生さんを泣かせるなら、不安にさせるなら、本人が僕に逃げたいと言うのなら、僕はもう気持ちを隠さない。 「弥生さん……そんなに辛い? いいよ、それなら逃げておいで。僕がずっと一緒にいる。一生、生きてる間も死んだ後も、アナタだけを見て、アナタだけを大事にして、アナタだけを好きでいる。アナタが嫌がる事はしないし、アナタの為ならなんだってする。アナタは僕に何をしたってかまわない、気持ちは永遠に変わらない、アナタが僕を必要ないと言うまで傍にいるから」 手を、床につけていた手を、おずおずと伸ばしてみる。 弥生さんに触れてみたくて……ああ、もちろん、変な事はしないよ。 ただ少しだけ、柔らかそうな頬に触れたいと、そう欲張ったんだ。 爪先が頬を掠める。 弥生さんは潤んだ目で僕を見てて、頬を触るくらいきっと拒否はされなそうだ。 だって微笑んでる。 それでも照れてしまって、中々触れなくって、そんな僕を見て、弥生さんの口角がグイと、急な角度で上がったんだ。 え……? そんな笑い方、初めて見たよ。 いつもはもっと柔らかく微笑むか、それか大きな口で豪快に笑うのに。 「……エイミーちゃん、嬉しいよ。アタシと一緒にいてくれるんでしょ? もう限界、ジャッキーもマジョリカも大嫌い、あの家にも帰りたくない、」 涙を流しながら、辛いのと訴える。 僕はそんな弥生さんの口元に釘付けで、いまだ頬に触れられない。 「ねぇ、明日からエイミーちゃんのアパートに住みたいよ。いい?」 ああ、とかなんとか。 僕はなんとなく釈然としなくって、曖昧に空気みたいな返事をした。 「なんか嫌そう……ダメなの? ごめんね、本当はさ、ちゃんとジャッキーと別れてからが良いよね。でもやなの、かといって行くとこもないの。だからお願いします。どうしてもダメなら……水渦(みうず)にでも頼むしかないけど、でも、アタシ、やっぱりエイミーちゃんと一緒にいたいよ」 ……ん? “お願いします”? “水渦(みうず)にでも頼む”? …… …………んん? ………………んんんー? 僕が返事もせずに黙っていると、弥生さんはソファから身を乗り出して、 「…………だって、エイミーちゃんのコト、本気で好きになっちゃったんだもの」 そう言って、頬を赤く染めたんだ。
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