第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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”好きになっちゃった” そんな事を弥生さんから言われたら……想像した事は何度もあった。 1人でキャーキャー盛り上がり、そしてすぐ”ありえない”としょぼくれた。 その想像通りになったというのに、 「………………ああ、そう」 なんとかして絞り出した言葉は、うんと短いものだった。 急にテンションが下がった僕に、弥生さんはムッとしながら言ったんだ。 「……ナニそれ。勇気出して好きって言ったのに、その態度は酷いくない? アタシの事が好きなんでしょ? 嬉しくないの?」 目が覚めた時、いないはずの弥生さんがいた事で舞い上がってしまった。 所々に散りばめられた、気付くか気付かないかの微かな違和感。 じわりじわりと大きくなって、急にぶわんと膨らんだ。 僕は返事の代わりにため息をついた。 「……なんか失礼じゃない? エイミーちゃん、どうしたのよ。アタシなんか悪い事した? そうなら言ってよ、ねぇ」 ソファに座る弥生さんは、縋るような目で僕を見る。 目が合って、まじまじとその顔を見て、もう一度ため息をついた。 「はぁ…………最低だな」 「……なにが?」 不安そうな顔をして、今度は弥生さんが僕に向かって手を伸ばした。 その爪先は綺麗なピンクで、ネイルが丁寧に塗られていた。 ため息がとまらない。 「なにがって……最低なのはバカすぎる僕自身と、……それからアンタだ」 ピンクの爪を避けながら答え、そして立ち上がる。 少しでも距離を取りたい、そう思ったからだ。 「アンタって……女性に向かって酷い言い方ね」 「酷い? 酷いのはどっちだ。人の気持ちを利用するなんてさ」 「言ってる意味がわからないわ」 「意味がわからない? よく言う。分かってるクセに。弥生さんを(・・・・・)バカにするな」 語気強めで吐き捨てた。 あまりにも気分が悪い。 人の恋心をなんだと思ってる。 僕は大きく息を吸って吐き出した。 そうでもしないとブチキレそうだからだ。 「はぁぁぁ……完全に騙された。すごいな、この短時間で僕の過去を霊視したのか? 悔しいけどほぼほぼ完璧だった。でもチガウ。アンタは弥生さんじゃない。あの人はもっと可憐に下品だ。”意味がわからないわ”、じゃない。ココは”ナニ言ってんのか全然ワカンネ!”だよ。それにね、弥生さんは料理をするんだ、だからネイルはしない」 目の前の弥生さんモドキは、言われてすぐに手を隠した。
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