第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「ああもう、思い返せば怪しいトコいっぱいあったな。“お願いします”? チガウチガウ、“頼むよぉぉ!”だ。それに水渦(みうず)さんの事は”クソ水渦(みうず)”って呼ぶはずだし、僕んちに来れないからって水渦(みうず)さんのアパートに行こうなんて絶対に考えないよ。2人はすっごい仲が悪いんだ。水渦(みうず)さんに頭を下げるくらいなら、弥生さんは余裕で野宿を選ぶだろう」 いや、野宿よりかはどこかの飲み屋で一晩中飲むのかな? あの人、底なしにお酒を飲むから。 どっちにしたって水渦(みうず)さんはないわ。 「な……なに言ってるの? 女が野宿なんて……出来ないよ。普段はクソ水渦(みうず)と仲が悪いけど、こういう時は女同士で協力し合うのが、」 まだ言ってるよ。 いきなり”クソ水渦(みうず)”に呼び方変えたけど今更だ。 その小芝居を見るのも嫌で、僕は途中で遮った。 「女同士で協力? ナイ、ナイナイナイ! 残念! 霊視が足りてないよ! 水渦(みうず)さんと弥生さんを同じ部屋にいさせたら、10分もしないうちに取っ組み合いが始まるからね。 あ゛ーーーーー、もーやだー! バカバカバカ! お前なんて大嫌いだっ! 本気で告白したのにっ! 僕の本気を返せっ!」 本物の弥生さんだと思って告白したシーンが勝手に脳内で再生された。 オートで、アゲインで、エンドレスで、ループで。 ああ……もうやだ。 悶絶する恥ずかしさと悔しさを紛らわす為に、僕はズカズカと部屋の中を見てまわった。 まずは窓だ。 大きいけれど、ガラスの向こうは何もない。 建物も道路も信号も民家もなんにもだ。 ただただ果てなく白い世界が広がっている。 開けてみようとガタガタしたけど、固く閉ざされ開いてくれない。 振り返り部屋を見る。 テレビもない、お茶セットもない、トイレもシャワーもない。 小さな玄関に黒いドアはあるけれど、開くかどうかもわからない。 そしてあるはずの靴もない。 此処はリアルのビジネスホテルじゃない、ただのハリボテだ。 「はぁ、」 ため息をもう一つ。 (おさ)霊力(ちから)は残り僅かじゃなかったの? 僅かでもこのくらいは出来ちゃうの? こ、こわ……僕達はとんでもないのと戦ってたんだな。 脱力しながら振り返ると、ソファに座ったままの弥生さんモドキがいた。 腹立つ、いつまでもその姿でいるな。 「いい加減にしてよ、気持ち悪い。元の姿に戻ったらどう? アンタは弥生さんじゃない、(おさ)だ」 ため息がとまらない。 ため息1つで、1つの幸せが逃げるというけど、それでもやっぱり止まらない。 目の前の弥生さんモドキ……(おさ)は、綺麗な顔を歪ませた。 口角を、グィィと極端に上げる。 そうだ……この上げ方、顔だけの(おさ)もしてたっけ。 だからだ、さっき視た時、違和感を感じたんだよ。 弥生さんはもっと可愛く笑うもん。
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