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「ああもう、思い返せば怪しいトコいっぱいあったな。“お願いします”? チガウチガウ、“頼むよぉぉ!”だ。それに水渦さんの事は”クソ水渦”って呼ぶはずだし、僕んちに来れないからって水渦さんのアパートに行こうなんて絶対に考えないよ。2人はすっごい仲が悪いんだ。水渦さんに頭を下げるくらいなら、弥生さんは余裕で野宿を選ぶだろう」
いや、野宿よりかはどこかの飲み屋で一晩中飲むのかな?
あの人、底なしにお酒を飲むから。
どっちにしたって水渦さんはないわ。
「な……なに言ってるの? 女が野宿なんて……出来ないよ。普段はクソ水渦と仲が悪いけど、こういう時は女同士で協力し合うのが、」
まだ言ってるよ。
いきなり”クソ水渦”に呼び方変えたけど今更だ。
その小芝居を見るのも嫌で、僕は途中で遮った。
「女同士で協力? ナイ、ナイナイナイ! 残念! 霊視が足りてないよ! 水渦さんと弥生さんを同じ部屋にいさせたら、10分もしないうちに取っ組み合いが始まるからね。
あ゛ーーーーー、もーやだー! バカバカバカ! お前なんて大嫌いだっ! 本気で告白したのにっ! 僕の本気を返せっ!」
本物の弥生さんだと思って告白したシーンが勝手に脳内で再生された。
オートで、アゲインで、エンドレスで、ループで。
ああ……もうやだ。
悶絶する恥ずかしさと悔しさを紛らわす為に、僕はズカズカと部屋の中を見てまわった。
まずは窓だ。
大きいけれど、ガラスの向こうは何もない。
建物も道路も信号も民家もなんにもだ。
ただただ果てなく白い世界が広がっている。
開けてみようとガタガタしたけど、固く閉ざされ開いてくれない。
振り返り部屋を見る。
テレビもない、お茶セットもない、トイレもシャワーもない。
小さな玄関に黒いドアはあるけれど、開くかどうかもわからない。
そしてあるはずの靴もない。
此処はリアルのビジネスホテルじゃない、ただのハリボテだ。
「はぁ、」
ため息をもう一つ。
長の霊力は残り僅かじゃなかったの?
僅かでもこのくらいは出来ちゃうの?
こ、こわ……僕達はとんでもないのと戦ってたんだな。
脱力しながら振り返ると、ソファに座ったままの弥生さんモドキがいた。
腹立つ、いつまでもその姿でいるな。
「いい加減にしてよ、気持ち悪い。元の姿に戻ったらどう? アンタは弥生さんじゃない、長だ」
ため息がとまらない。
ため息1つで、1つの幸せが逃げるというけど、それでもやっぱり止まらない。
目の前の弥生さんモドキ……長は、綺麗な顔を歪ませた。
口角を、グィィと極端に上げる。
そうだ……この上げ方、顔だけの長もしてたっけ。
だからだ、さっき視た時、違和感を感じたんだよ。
弥生さんはもっと可愛く笑うもん。
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