第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「此処はどこなの? リアルじゃないよね」 答えるかはわからない。 でも聞いた、だって此処には(おさ)しかいない。 聞く相手が他にいない。 『…………まぁ、長くは騙せぬとは思っていたが、』 あ、一応答えた、でも回答にはなってない。 でも、話をする気はあるみたいだ……って、そうだよ、このお爺さん、お話好きのロングトーカーだったわ。 「見た目は完璧だったよ。でも中身にアンマッチが多々あった。……そうだよな、弥生さんがジャッキーさんとマジョリカさんをキライになるはずがない。もし2人に不満があるなら、直に本人達に言うタイプだ。あの人、笑っちゃうほど単純ドストレートだからね。……クソ、外見が完璧すぎて見抜けなかった。悪霊の嘘を見抜けないとどうなるか……中村さん。僕今、肌で学びました。痛い目見たよ、中身は(おさ)なのにガチで愛を囁いちゃったんだもの……ぐは」 デリートしたい負の囁き。 弥生さんだと思っていたのが、実際は皺だらけの顔だけ爺さんだったのかと思うと、自分自身が不憫になる。 だけど同時、希望が湧いた。 此処がどこかはさておいて、僕の中ではたくさんの感情が溢れてる。 イコール自我があるという事で、何度も言うが魂を喰われていない証拠だ。 (おさ)は小蛇で僕を噛み、訳ワカンネ!(弥生さんぽく)なフィールドに引っ張り込んだ。  此処は幻影、嘘の世界。 (おさ)の言ってる事はぜんぶデタラメだ。 という事はだ、みんなはまだ存在してる。 きっと山で僕の帰りを待っている。 俄然やる気が湧いてきた。 あとはどうやって此処から出るか、なんだけど……どうすりゃいいんだ? 『岡村よ、お前はこの女を好いているのだろう? だったらなぜすぐに抱かなかった。お前の為にこんな場所を用意したというのに』 ぶはっ! な、な、な、なに言っちゃってんの!? そ、そ、そ、そんなコト、出来るはずないじゃない!! 「お、お、(おさ)……下品!! そ、そんなコトしないよ! そういうのは、お付き合いして愛を育んで、そうだな……早くて半年後! へ、ヘンなコト言わないでよね!」 しどろもどろで動揺した。 あんな枯れたお爺さんが、こんな事を言い出すなんて思ってもみなかったんだ。 『あ……いや、お前の想像よりもっと手前の意味だ。抱くと言っても抱きしめる程度。……私とてそんな事は御免だ。お前が女の色香に酔って、抱きしめ、唇を吸ったら良かったのだ。さすれば魂を喰らう事が出来たのに』 「えっ! あぁ……そか、そういう意味ね。や、でも、(おさ)の唇吸うとか絶対無理! やだ! 僕、奥手で良かった! レンアイチキンで本当に良かった! でなければ今頃魂喰われてた! あっぶなー!」 言いながらどうやってフィードから脱出するか、同時に考えていた。 思えば前に似たような事があった。 ユリちゃんのお母さん、貴子さんの現場の時だ。 僕は1人でフィールドに迷い込み、脱出の手段がわからなくって途方に暮れて、それで……そう、先代が迎えに来てくれたんだ。 その時、先代はこう言っていた。 ____霊のフィールドから抜けるには、 ____その霊を成仏させるか滅するか、 ____それをしないと永遠に出る事は出来ない、 僕は恐る恐る(おさ)を視た。 てことは……僕、この人に勝たないと出られない感じ? マジか……!
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