第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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覚悟を決めて腹を括った。 僕は両手両五指、真っ赤に光る霊矢をチャージ。 やったるっ! と気合を入れたと同時に、ふと思い出した。 そういや小蛇に噛まれて倒れた時、みんなの怒鳴り声が聞こえたんだ。 ____絶対に(おさ)を逃がすな、 ____それから(おさ)を滅するな、 ____滅すれば岡村が……(岡村がナニ!? その続きは!?) クソ……下手に戦って、万が一奇跡が起きて勝てたと同時に、僕も消滅とかだったらどうしよう、ヤダ、そんなの絶対ヤダ。 じゃあ残る選択肢は”成仏”? や……無理だろ、絶対無理、どうしよ、僕、ずっとこのままなのか? 絶望的な気持ちになって、僕は霊矢を引っ込めた。 手段がない、他に方法が見当たらない。 (おさ)はというと、焦った様子は特になく、いまだ弥生さんの姿のままでゴソゴソ手指を動かしていた。 何してるんだろ……って、ロクな事じゃないのは確定だ。 いつでも逃げられるように(といっても狭い部屋だが)気を引き締めて視ていると……(おさ)の手の中、うにうに動く何かがあって……あれは……なんだ?……とても小さな……細長い……アウチ……ありゃ小蛇だ……! 嘘だろ……もう一匹いたのかよぉ……! 『安心するがいい。苦しませはせぬ。今回は見破られたが、もう一匹のこの蛇で噛んでやる。さすればこれまでの記憶は消える、そして今度こそ、私を愛しい女と信じ、抱きしめ唇を吸うだろう』 グィィと口角を上げ、細い手指に小蛇を絡め、僕を真っすぐ視つめてる。 「悪い冗談はやめてよ……僕、絶対ヤダ。(おさ)とキッスなんてしたくない」 『怖がるな。噛まれた後は私が私だとはわからない。今度は私から吸ってやる。お前は幸せを感じたまま魂を寄越す、双方に益がある』 (おさ)はそう言い、小蛇が絡む人差し指を僕に向けた。 「ヤダ……やめてよ。てかいいの? 小蛇は毒でしょ? 2匹も嚙ませたら僕の身体に支障があるかも。アナタ、無傷の身体が欲しいんじゃないの?」 『この小蛇に毒はない。あるのは幻影作用だ。心配するな』 「……あぁ……それが小蛇のもう一つの作用なのか……中村さんから二度聞きそびれたんだ、クソッ……アレに噛まれたらヤバイ……ん? てことは弥生さんのその姿も幻影? さわってないから分からないけど実体がありそうなのに……」 『実体か……近いものはある、だが本格的な戦闘向きではない。まさに女の身体と同じだ、非常に壊れやすい。この術の本来は幻影を視せ、操る為にある。たとえば、持丸や彰司を私だと思わせて戦わせるとかな。それよりはマシであろう? ありがたく思え』 「や、お爺さんとキッスだなんて、それもかなりの地獄だよ」 『お前が地獄と感じようが私には関係のない事だ。諦めろ、助けは来ない。此処は私しか出入り出来ぬ。私の霊力(ちから)が場を開き、私自身が鍵となるのだ』 ジリジリと迫られる、僕は対角線にシンクロしながら間合いを取った。 ああ、でもさすがに駄目かも、放たれたら避けられない。 考えろ、どうにか回避するんだ、キッスは嫌だ、だがそれ以上に身体を渡すのが嫌だ。 僕の姿で誰かを傷付けるくらいなら、いっそ自分で自分を____
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