第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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あ、と思った時、先代は僕の手を離していた。 一瞬で移動したのか、弥生さんの姿をした(おさ)の前にいる。 パーソナルスペースなんて知った事か! な、近距離で顔を斜めに詰め寄った。 『消されて当然? ソレ、オマエの事だよな?』 それは凄みのある声と口調だった。 あれ……? えっと……先代だよね? 『私ではない、だから、』 (おさ)が言いかける、が、それをバッサリぶった切る。 『岡村は”おくりび(ウチ)”の三男坊だ。俺の(・・)大事な大事な息子なんだよ。俺の息子が消されて当然? ふざけんなヘビ野郎。オマエこそ今すぐココで滅してやろうか?』 や、ちょ、先代……? 僕のコト呼び捨てになってるよ?(ぜんぜん良いけど、ウェルカムだけど) それと今、社長と弥生さんと水渦(みうず)さんとジャッキーさん(ガチギレ時)を混ぜ合わせた感じになっちゃってますけど、いつものキャラと全然違うんですけど、ちょ、先代? 『……き、貴様、持丸、誰に向かって口を聞いている、』 怒りで顔を真っ赤にした(おさ)が声を震わす。 が、先代の勢いは止まらない。 『誰に向かって? オマエだよ、オマエ!! 目の前で! オマエ視ながら話してるんだ! それくらい分かれ! つか大物っぽく振舞うな! 腹立つー!!』 フンガー!! 先代キレまくりだよ、もうキャラ崩壊だよ。 『岡村くんが作ったスィートポテト! んまいねぇ♪』 なんてニコニコ笑う、かわゆすキャラが行方不明になりました。 こりゃあ、若い頃の話したがらない訳だわー。 このフンガーキャラを収める事が出来るのは、親友である瀬山さんしかいないのだが、扱いは慣れたものだった。 『平ちゃん、落ち着いて。岡村さんがビックリしてるよ。僕、手短に話すから、話したら山に戻るから、そしたらみんなに滅してもらおう? 若者達が頑張ったのに、最後のトコだけ年寄りがしゃしゃり出たら嫌われちゃうよ! いいの?』 腰に手をやり諭すように。 瀬山さんはどこまでも優しくて、先代は『若者達が頑張ったのに』にめっちゃ反応してたんだ。 『あっ、そうだよな! 悪い、俺、カーッとなった! 中村にも怒られるトコだったよ。ごめんショウちゃん。そんじゃあ、先に戻ってる! 早く帰ってきてな! 岡村、行くぞ!』 大反省の先代は、瀬山さんに素直に謝り僕の手を取った。 まだ僕を呼び捨てにしてるけど、テンパってるのか気付いてない。 瀬山さんは小さく手をフリフリしてて、それでも、飛び掛かる(おさ)を片手で止めた。 『トゥ!』 僕の手をしっかり握り、先代は窓から飛び降りる。 いきなり床がなくなって、「わーーーーーっ!」と叫ぶヘタレな僕に、先代はゲラゲラと笑っていた。 下を視れば、たくさんの花が咲くキレイな道が視えたんだ。 あれが瀬山さんの作った道なんだな。 それにしても……僕は昔、お花屋さんでバイトをしてたのに、あの花は視た事がない。 不思議だな……赤、青、黄、紫、ピンク……多色に咲き乱れるその花たちは、時間で色を変化させていた。 どれだけ視てもちっとも飽きない、あれはこの世の花じゃない。 そうだ……前にジャッキーさんから聞いた事がある。 たしか花の名前は【百色華(ひゃくしょくか)】だったはずだ。 黄泉の国だけに咲く、特別な花。 「キレイだなぁ」 山に帰る道のりを、僕と先代は虹の色を楽しみながら戻っていったのだ。
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