第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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助けを借りて起き上がる。 本当は1人で平気だけど、優しさが嬉しくて甘えてしまった。 僕は一人一人の顔を視て、ああ、帰ってきたんだなぁ、なんてニマニマしてたんだ。 そしたらさ、あろうことかポニテのいぶし銀が…… 『お前のヘマじゃない。私がもっとしっかりしていれば良かったのだ、すまない』 そう言って頭を下げたんだ。 えっ! ちょ! やめて! 一気に目が覚めた僕は冷や汗をかいた。 だって中村さんが謝る事じゃないもの! 「ち、違うよ! 中村さんのせいじゃない! 僕が油断したの! カウントも残り1つで、まだなのにもう滅した気になったのかもしれない。ごめんなさい、最後の最後まで気を抜いたらダメなのに」 『気が抜けたのは私かもしれん。そんなつもりは無かったが、現にお前を危険に晒した』 だから、私が悪い、 ちがう、僕が悪い、 男2人で謝り試合。 埒が明かないこの試合。 引っ込みどころを見失った僕達を収束させたのは大上さんだった。 『あーあー、どっちも悪くねぇよ。そうだなぁ、じゃあよ、森木のオッサンが悪かったってコトで良いんじゃねぇか?』 半笑いのニヤケ顔。 大上さんは自慢のデザートイーグルを、(おさ)に突き付けたままそう言った。 いきなりの無茶振りに森木さんが慌てたのは言うまでもない……のだが。 『えぇ!? えぇっとー、私ぃ!? えぇっと、えぇっと、……ふむ、そう言われると私が悪いような気がしてきました。ここは素直に謝りましょう。ゴメンナサイです、はい』 コッチこそ、えぇ!? 謝っちゃうの? 森木さん悪くないのに? いいの? それでいいの? 僕を含めた全員が汗を掻きつつポカンとし、でも耐えきれない17才が霊体(からだ)をくの字に笑い出すと……もうダメ、限界。 (かける)君につられた僕達も、目尻に涙を滲ませて、ひーひー言いながら、バカみたいに大口を開けて、腹を抱えて笑っちゃったんだ。 この時おそらく____ みんなは頭の片隅で同じ事を考えてたんじゃないかと思うんだ。 (おさ)を滅する、これはもちろん忘れてない。 だけど、それでも、こんな時だけど、たくさん話そう、たくさん笑おう……だってもう時間がない。 別れの時は、すぐそこまで迫っているのだから、と。
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