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薙刀が貫通する顔だけの長は、眉間に深い皺を寄せ目は閉じたまま、地面にしっかり固定されていた。
意識はなく、顔を歪ませ時折呻き声を上げる、これを何度も繰り返していた。
聞けば、僕が小蛇に噛まれてから、長もすぐに意識を失ったらしい。
僕が倒れ、みんなは長を滅するどころではなくなって、強いパニックに陥ったのだという。
僕の肌が紫色に変化しない事から、今回、毒ではなく幻影に捕らわれたのだとすぐに察し、中村さんは大橋さんと近藤さんに治癒の指示を出した……が、毒であれば大橋さんが吸い出す事が出来るけど、そうじゃない。
身体に直接的な害がない状態では、これといった有効策がなく、様子を事細かに視続けて、何かあれば回復させるくらいしか出来なかったそうだ。
今までの前例で言うのなら、小蛇の幻影は掛けられた霊だけに作用した。
意識を失うなり、錯乱するなり、幻覚を視たり……等々だ。
これまで、術者の長が意識を失うなんて1度もなかったというのに。
今回、それだけ霊力の残量が乏しかったのだろう。
霊力ジリ貧の長がどう出るか、それは考えるまでもなかった。
僕の魂と身体を欲してやまない長の事。
誰にも邪魔をされない自身のフィールドに引っ張り込むはずだ。
そこで僕の魂を喰らえば一発逆転出来る。
長は最後の霊力を振り絞り、なりふり構わず喰らいに行った、みんなはそう確信したそうだ。
となれば意識のない長に説明がつく。
山と異空間、この2拠地で意識を維持するなどは不可能で、ならばいっそとフィールド1拠地に全振りしたのだ。
みんなの前で意識を失った長。
滅するのにこれ以上のチャンスがあるだろうか。
にも関わらず、一切の手が出せなかったのは、僕を守る為だった。
術者の長を滅すれば、フィールドも、中にいる僕も、すべてが一緒に消えてしまう。
山にある肉体は残るかもしれないが、魂を含む霊体が消えたのでは意味がない。
それを聞いて、僕は申し訳ない気持ちになった。
目の前に滅したくてたまらない長がいるのに、無防備に意識を失っているというのに、僕のせいで手が出せないなんて、どんなに悔しい思いをしただろう……そう思い謝ると、みんなは揃って首を横に振った。
『岡村を……誰かの犠牲の上にある勝利ならいらない。全員で滅そうと約束したじゃないか』
とにかく、どうにかして僕を取り戻そうと必死になったそうだ。
だが手立てがない。
長のフィールドは長以外、いかなる手練れも干渉出来ない。
助けに行く事も出来ず、ブロックされて霊視も出来ず、中で何が起きているのか情報も得られず、焦りと苛立ちだけが増えていく。
時間が経つほど下がる僕の生存率、今頃喰われてるのではないかと絶望感が広がる中、あの2人が現れたのだという。
____岡村君を迎えに行ってくる、
____大丈夫、私達なら入れるから、
____だから心配しないで、
____此処で待っていて、
瀬山さんは優しく微笑み、みんなが視た事のない印を結び始めた。
細い手指が複雑に絡み出すと間もなくし、これまた視た事のない綺麗な花が次々地面に咲き出した。
花は一瞬で広がり、数多の色は時間でそれぞれ変化する。
その花を踏まないように、2人は真っすぐ歩き出し、いつしか背中は遠い先で消失した。
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