第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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いつの間にかだ。 (かける)君が僕に寄りかかってうたた寝を始めた。 言っちゃえば反対側、大福も。 ふたりともスヤスヤで、鼻がぷーぷー鳴っている。 やだ……なんだか和んじゃうんですけど。 大上さんはそんな僕達を視て、『おまえらなんかカワイイな』と笑ってる。 ”おまえら”じゃない、カワイイのは(かける)君と大福。 僕はどう視たって保護者でしょ? と小声で聞くと、『ん-どうかな?』と首を傾げた。 それ以上は話さずに(寝る子を起こしちゃうからね)、暇になった僕は、目の前の(おさ)を眺めていた。 此処に……滅すべき悪霊がいる、でも今は休戦中だ。 (おさ)はさ、残り僅かななけなしの霊力(ちから)、それを使って僕をフィールドに引っ張り込んだ。 結局失敗に終わった(おさ)だけど、今度こそ、霊力(ちから)は塵ほどしかないのかもしれない。 だって顔がさ、すごくお爺さんだもの。 もし今も生きてたら、100才越えの老人だ。 顔を刻む深い皺はさらに深く、顔色も悪い。 髪は薄く白髪ばかりだ。 眉も睫毛も、みんなみんな真っ白で、黙っていればショボくれた、ごくごく平凡なお爺さんにしか視えない。 そんな(おさ)を眺めていたら、不意に思い出したんだ。 ____人の痛みがわからないって怖い事ですよ、 前に、先代が僕の部屋に泊ってくれた時、そう言っていたのを。 (おさ)は損得で物事を考える。 愛情が理解出来ず、瀬山さんが初めて恋をした時も、それを悪だと言い切った。 人を好きになるって素晴らしい事なのに、権力よりももっと尊いものなのに。 現世で一緒になれないならと、心中するほど追い詰められた瀬山さん。 息子の気持ちを汲むどころか、裏切者と辛くあたった(おさ)。 人の痛みがわかる人なら、そんな事は出来ないはずだ。 もし……もしもだよ。 (おさ)にも瀬山さんにも霊力(ちから)なんてなければ、(おさ)が平凡なサラリーマンだったら、そしたら違ったのかな。 権力なんてなくってさ、僕の父みたいに小さな会社の中間管理職でさ、たまに胃薬とか飲んじゃうけど、「母さんと(ひで)ときなこ(茶トラ猫)がいるから頑張れるの」なぁんて笑うみたいに……(おさ)もさ、『彰司は私の大事な息子だ』なんて言っちゃって、瀬山さんはそれ聞いて嬉しそうに笑うんだ。 はは……なに勝手な想像をしてるんだろ。 現実は全然違うし、こんな事を考えたって意味がない。 ああ……うん、意味はないよ。 でも……でもさ、想像の中だけの世界だけど、霊力(ちから)のない瀬山さん達は仲良し親子でさ、瀬山さんは幸せな子供時代を過ごして、初恋の女性と幸せな結婚をするんだ。 それで(おさ)は、可愛い孫を抱きながらめっちゃデレデレしてるの。 はぁ……そんな世界が本当にあったら良かったのにな。 ああ、なんだろ、鼻の奥が痛くなってきた。 僕は眠くなった振りをして俯いて、感情が落ち着くのを待っていた。 と、その時。 『…………なんだ……コイツ……どうしたんだ……?』 突然、ただならぬ大上さんの声が聞こえ、何事かと僕は顔を上げたんだ。 大上さんは驚いた表情で(おさ)を視ていた。 なんだ? と目線を移動する。 「え……? なんで……?」 そこには弱々しい表情(かお)をした(おさ)がいた。 口をへの字に歪ませて、鼻をグズグズさせて……でも、それだけなら驚かない。 信じられなかった……視間違いかと思った。 だってさ、皺の閉じた両目から、微かに水が……滲み出していたのだから。
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