第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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(おさ)が泣いている? いやまさか……僕は半信半疑だった。 頭の中でユルユルと疑問符が滑る中、少し遅れて別の考えが浮かび上がる。 もしかして……意識が戻ったのか? そう思った途端、緊張が走った。 僕と大上さんは目を合わせ、黙ったままで(おさ)を視た。 手のひらがジトっと湿気り、僕はそれをシャツで拭う。 大上さんもおんなじなのか、銃のグリップを強く握り直していた。 …… ………… ……………… だが、(おさ)は依然として動く気配はなかった。 目は固く閉じられて、視たはずの滲む水も今は無く、その跡すら視当たらない。 「……意識が戻った訳じゃ……なさそうだよね」 (おさ)から目は離さずにそう言うと、 『……だな。つーかさ、(コイツ)……さっき泣いてなかったか?』 大上さんは訝し気に(おさ)を覗く。 「ん……僕もね、そうかなって思ったんだ。でもどうだろう? 目に水っぽいのが滲んでただけだし、今はない。そもそも……この(ひと)って泣くのかな? 大上さんは、今まで(おさ)が泣いたの視た事ある?」 『ねぇよ! (コイツ)は怒ってるか、やーな感じで笑ってるかのどっちかだ。泣くなんてあり得ねぇ。ん……やっぱ、俺らの視間違いかな』 大上さんはそう言ったし、僕もそうかなって思うけど、でも、でもさ、2人揃って視間違うって中々ないよ。 ほんの少しではあったけど、やっぱり(おさ)は泣いてたのかな。 だとしたら……なんでだろう? 今頃は瀬山さんと話をしているはずなんだ。 もしかして、その影響なのかな? 真実はわからない。 (おさ)本人か、瀬山さんに聞かなければわからない。 気にはなるけど、それを聞いていいかもわからない。 それからすぐの事だった。 慌てたような先代の大声が聞こえてきたんだ。 『ショウちゃん!』 その声に(かける)君と大福がムニャムニャと目を覚ます。 そして僕と大上さん、それから散り散りだった他のみんなも一斉に、声の方向に目をやった。
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