第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

230/267
前へ
/2550ページ
次へ
『____5、』 本当にこれが最後だ。 『____4、』 瀬山さんと先代は、僕らのすぐ後ろにいる。 2人は手を出さない。 最後まで視守ってくれるんだ、……ああでも、瀬山さんは大丈夫かな、視てて辛くないのかな、それがとても心配だ。 『____3、』 《うぁぁ……》 あ……まただ、また(おさ)が呻き出した。 意識はないはずなんだけど……もしかしたら夢うつつなのかな、 (おぼろ)げに、何かを思い出してるのかな、 それは一体なんだろう? 少し……気になるけど、 だけどもう、それを確かめる術はない、 『____2、』 あ…………まただ、 (おさ)の目、 固く閉じた皺の目から薄っすら水が滲んでる…… あれは涙か……? それとも……目の錯覚か? 涙とは言い切れないごくごく少量、 僕にはなんとも判断がつかない、 『____1、』 《…………れた……》 ……ん?  (おさ)……何か言ってる……? 聞こえるか聞こえないかの微かな声だ、 まさかまた油断させて小蛇で噛む気か……? いや……それはもうないだろう、 あのお爺さんにそんな霊力(ちから)は残ってない、 放っておいても消えそうだもの…… じゃあ夢を視てるのか……? 寝言……みたいなものなのか……? 《…………れた……まれ……わた……の》 ”まれ” ?  ”わた……の” ? 何を言ってるんだ……? そもそも……意味のある言葉かどうかも分からない、 ただ単に”音”を発してるだけかもしれない、 僕は気にするのをやめようとした、 集中しなくちゃ、カウント0で霊力(ちから)を発する、 それで(おさ)を滅するんだ……そう思っていたのに、 聞こえてしまった、あれは単なる”音”じゃなかったんだ、 《…………うま……れた……しょうじ……わた……わたしの……むすこ……》 え……? 《……わた……の……だいじ……な……むす……こ》 あ、と思った。 (おさ)は夢の中で80年前に戻ってるんだと、 瀬山さんが生まれた日に戻ってるんだと、 そう思った、 同時、 『____0、』 中村さんのカウント0で、一斉に霊力(ちから)が放たれた。 男達の真ん中で、霊力(ちから)のすべてを受けた(おさ)は、ザラザラと砂が零れて流れるように形を崩すと、この世とあの世のその両方から、姿を、存在を消した。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加