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____長を滅したらさ!
____いっせーので、みんなで笑おうぜ!
苦内を握れば手練れになるけど、素顔はカワイイ17才。
長を滅する前、翔君は無邪気な顔でこう言ったんだ。
みんなもそれに賛成し(もちろん僕も)、長を滅した今、その約束はいつ果たされても良いはずなのに、言い出す霊は誰もいなかった。
みんなはその場に座り込んで、ホッとしたような、気が抜けたような、二言三言コトバを掛け合い、互いの肩を力弱く叩き合い、目を合わせ『本当に滅したんだな』なんて。
地面に刺さった薙刀は、ただそこにあるだけで、長の姿はどこにもない。
長年、自分達を縛り続けた長がいなくなった事を、噛み締めるように確かめ合っていた。
僕達から少し離れた場所。
そこでは、瀬山さんと先代が2人だけで座り込んでいた。
最初、瀬山さんは地に刺さる薙刀を視てたんだ。
ぼーっとした顔で暫く眺め、その後、口を開けて何かを言って、かすかに笑って、だけどすぐに顔を歪めて、それで……ゆっくり霊体を前に倒すと、そのまま地面にうずくまってしまった。
瀬山さんは泣いていた。
地面におでこを擦り付け、声を殺して霊体を丸めて……ただでさえ細いのに、その姿はうんと小さく頼りなくって、まるで捨てられた子供みたいに視えたんだ。
黙ったままの先代は、薄い背中を撫ぜ続けているのだが、不意に僕と目が合うと……
シー、
と口元に指を立て、黙っているように言った。
瀬山さんが泣いているのを、まだ誰も気付いていない。
隠さなくっちゃ、と思った。
瀬山さんの涙を視れば、きっとみんなは心を痛める。
みんなは少しも悪くない、もちろん瀬山さんも悪くない。
さっきの……瀬山さんにも聞こえたのだろう。
夢うつつの長が言った最後の言葉。
生きていた頃も死んだ後も、親子は色々あったけど、それでも、あの瞬間の長は、どこにでもいる平凡な父親だったよ。
息子の誕生を喜んで、愛しく想い”大事”だと言葉に出した。
たったの一言だったけど、あの一言が瀬山さんを救ったんだ。
本当は大きな声で泣きたいのかもしれない。
だけど瀬山さんの性格だ。
みんなを気遣って、だから声を殺して、うずくまって、小さくなって、分からないように泣いているんだ。
「大福、」
小さな声で猫又を呼んだ。
空気を読んだ賢いハニーは、囁くように『ぅな?』と答える。
「瀬山さんのコトに行ったげて。泣いてるの、みんなに分からないように隠してあげて」
僕がそうお願いすると、”サイレントニャー”で返事をくれた大福はポテポテと歩き出した。
実にさり気なく手練れの傍まで到着すると、お得な三尾を一振り二振り。
あっという間に虎の子サイズの猫又は、軽トラサイズにスケールアップ。
ドドーンと可愛い大きな霊体で、ドスーンと貫禄の香箱座り。
瀬山さん……これでダイジョウブ、これでもう視えないよ。
誰にも視られない、誰にも知られない。
だから今だけ、少しだけ、息子に戻って気持ちの整理をつけたらいい。
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