第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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1人も欠ける事もなく。 トゥエンティーエイトマンセルの全員で(おさ)を滅したのだ、という実感がようやくみんなに湧いてきた。 右を視ても左を視ても、どこを視ても(おさ)はいない。 これでもう、いつ喰われるかと怖がらなくていいし、生者を襲わなくていい。 嫌いでない瀬山さんを悪く言う必要もない、コソコソ隠れず好きな時に好きな話をしたっていい。 大きな声で、大きな口で、思いっきり笑ったって咎める(おさ)はもういない。 みんなはお互いの頑張りを労い、褒め合っていた。 『まさか(かける)があんなに頑張るとは思わなかったよ!』 『杉野っちだってスゴかったじゃん! 大鎌でさ、ブチブチブチーって小蛇刈ってさ! でもアレ、気持ち悪かった……』 『モリッキーの(森木さん)薙刀投げもスゴかったぜ!』 『えぇっとー、実はあれドキドキしてました。恰好つけて投げたはいいが届かなかったらどうしようって、はい。届いて良かったです、はい』 『中村さんの二刀流も久々に視たよ! (おさ)燃やしちゃうんだもん!』 『大上はなんでも銃で解決だよな! 炎を銃で消すってオマエくらいなものだろ』 『岡村も大したもんだよ! 俺らを潰した黒い山を再構築でどかしちゃったもんな!』 『岡村……そのなんだ。片想いでも良いんだ。人を好きになるというのは素晴らしい。たとえ報われなくてもだ』 『そういや(おさ)のフィールドで偽物の弥生さんに騙されそうになったんだって? あやうく(おさ)と接吻するトコだったんだろ? ……ぷぷ……ぷぷ……ぷっはーっ! あははははは! 悪い、駄目だ! (かける)じゃないけど笑いが止まらん!』 『ちょっとー! そんなに笑うコトないでしょー! 言っとくけど、僕は途中で嘘を見破ったんだからね! (おさ)とキッスなんてしてないからね! そこ大事だから誤解しないでよねー!』 ワイワイガヤガヤ、そして大笑い。 お腹の底からゲラゲラで、(かける)君はもちろんだけど、大人達も一緒になって霊体(からだ)をくの字に曲げたんだ。 楽しくて楽しくて、みんなそろって笑顔になって、そのせいなのかな? 大地に広がる百色華(ひゃくしょくか)は、赤青黄色、緑に紫、橙色と、虹が瞬きするように、色を時間で変えていた。 話は全然尽きなくて、ずっとずっと笑っていたら、いつの間にか瀬山さんと先代がやってきた。 『みなさん、父を滅してくれてありがとうございます』 そう言って頭を下げた瀬山さんは、もう泣いていなかった。 淋し気に微笑むと、こう続けたんだ。 『……父は最後、ほんの一瞬だったけど、悪霊ではない顔を覗かせました。……だからと言って、みなさんへの非道が消えるでもなく、取り返しのつかない事をしました。なのに……私は謝る事しか出来ない、それがとても心苦しいです。…………滅してくれて、ありがとうございました。穏やかな顔だった……あんな顔を視たのは初めてで、もしかしたら父は……滅された事により、”瀬山の家”から解放されたかもしれません、』 ゆっくりではあるけれど、力強く言葉を紡いだ瀬山さんは、最後にもう一度、深々と頭を下げた。 それを視たみんなは慌てたように首を振り、その中の一人、中村さんが言ったんだ。 『彰司さん、お礼なんか言わないでください。救われたのは我々だ。我々だって悪霊で、滅されるべき罪人だ。そんな我々を……彰司さんと持丸と、そして岡村が救ってくれた。最後の最後で”ヒト”に戻してもらったんだ。 名前で呼ばれたのも……こんなに笑ったのも久しぶりだ。僅かに残っていた霊媒師としての誇りを思い出させてくれ、最後は正しく霊力(ちから)を使えた。 こんなに嬉しい事はない、誰かに救われるなんてないと思ってた。ありがとう……本当にありがとう。 今、我々は最高の気分だ。思い残すことは何もない。 …………さぁ、そろそろ良いだろう。 岡村、我々を解放してくれ。 この幸せな気持ちのまま、お前の手で、全員そろって自由にしてほしいんだ』 ポニテのいぶし銀はそう言って破顔した。
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