第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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とうとう、この時が来てしまった。 覚悟をしてたはずなのに、いざそう言われると喉が詰まって言葉が出ない。 中村さんと目を合わせ、みんなとも目を合わせ、喋れないならせめて笑おうと思うのに、顔がこわばりそれすら出来ない。 僕はさ、どうしようもないポンコツだ。 ああもう……しっかりしろよ、岡村英海。 最初に約束したじゃないか、僕がみんなを解放するって。 逃げる訳にはいかないよ。 どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに心が拒否をしてもだ。 『岡村、大丈夫か?』 困ったような優しい顔の中村さんが、返事をしない僕に問う。 すぐに言葉が出なかった。 それでもなんとか頑張って、わざとらしい咳をしてから無理やり声を出したんだ。 「あ……と、すみません。大丈夫ですよ、」 ____嘘です、大丈夫じゃありません、 『そうか、それなら良かった。……岡村、悪いな。辛いかもしれないが、我々はお前に解放してもらいたいんだ。……願掛けではないけれど、そうすれば、岡村の中で生きられる気がしてな』 「僕の中で生きられる……か、……うん、そういう考えもありますよね」 ____チガウ、そんなのは気休めだ、 『岡村……ありがとう。最後に出会えたのがお前で良かった』 「僕はなんにも……逆に僕の方が色々教えてもらっちゃった」 ____本当は足りない、もっともっと教えてもらいたい、 『いや……そのすまない。霊力(ちから)はお前の方が上なのに、ついつい出しゃばった真似をした。岡村はこれからも霊媒師を続けるのだろう? 現場で怪我をしたり、悪霊に騙されたり、そんな目に遭わせたくなくてな。それで口煩くなってしまったんだ。許してくれな』 「ううん、ううん、口煩くなんかないよ、すごく嬉しかった、だってさ、教えて貰えるってありがたい事だもの、僕は新人でさ、霊視すら出来なくてさ、……ああ、そうだ霊視、出来るようにならなくちゃ……大丈夫かな、習得出来るかな……うん、あのね中村さん、僕、本当はね、」 ____みんなを滅したくないよ、僕は覚えが悪いんだ、だから霊視はみんなが教えてよ、 そう言ってしまいたかった。 バカみたいに泣きながら駄々をこね、どうにかならないのかと喚き散らしたいと思った。 辛うじてそれをしないのは、前に視た【闇の道】があまりにも恐ろしく凄惨だったからだ。 此処で僕が滅さなければ【闇の道】がやってくる。 霊体(からだ)を焼かれ苦しめられて、そのまま地獄へ流される。 みんなをそんな目に遭わせる訳にはいかないよ。 だから強くならなくちゃ、僕が、僕の手で、滅さなくっちゃいけないんだ。 クソ……頭では嫌になるほど理解してる。 ただ、感情がついてこない。
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