第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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____1、僕の手でみんなを滅する、 ____2、僕は滅さない、その代わり【闇の道】がみんなを捕らえる、 ああ……最悪の二択だな。 どっちも嫌だと感情が泣き叫ぶ。 駄々をこね、どうにかしてよと暴れてる。 暴れたってダメだよ……だってさ、二択と言いつつ選択肢は決まってるんだ。 僕が滅するしかないんだよ、そうじゃないとみんなが苦しむ。 心の中で自分で自分を説得した。 僕だって嫌だけど、第三の選択肢はない。 だったらさ、腹を括るしかないじゃないか。 ここまで頭で分かっているのに僕の感情は強情だった。 ダメだな……このままじゃ集中出来ない、まともに霊力(ちから)が使えない、霊矢の印が結べない。 なんとか心を落ち着かせる為、僕は固く目を閉じた。 腹式呼吸で息を吸い、そしてゆっくりそれを吐く。 そうだ、暫くこうしていれば落ち着いてくれるはず……いや、落ち着いてもらわないと困るんだけど。 …… ………… ……………… 閉じた目には何も映らず視界は真っ暗。 今の僕は広がる闇にホッとする。 なんとなくのイメージなのか、僕はその闇に立っているような感覚に陥った。 嫌な感じはしない。 たとえるなら……自分の部屋にいるみたいな感じだ。 月のない夜中にさ、カーテンを閉め切って、光はないけど不安じゃない、むしろ心地が良いような、そんな感じ…………なんだけど、……なんだろ? 少し先に光るナニカ(・・・)が視えたんだ。 目を閉じているはずなのに、瞼の裏にソレが映る。 床……? でいいのかな、少し先の床の上。 そこには指先くらいの大きさの、光る珠がたくさん転がっていた。 あれはなんだろう? 薄ぼんやりと光を放ち、キレイだけどどこか悲しい。 僕は引き寄せられるように近付いた……その時、 ____こないでよ、 頭の中に声がした。 え……? なに……? どういう事……? おかしいよ……だってこの声、 ____みんなの事が嫌いなの? 声は光る珠の辺りから聞こえてくる。 拗ねたような、恨めしそうな、半泣きに震えるこの声……僕の声(・・・)に似てないか……? ____ヤダ、滅したくないよ、 間違いない……やっぱりこれは僕の声だよ。 高くもなければ低くもない。 平凡すぎる僕の声は、滅する事を拒否してる、嫌だ嫌だと駄々をこねてる。 なんだこれ……一人二役、自問自答をした事はあるけれど、今はしてない。 ____なんでだよ、もっと悪い(ひと)は他にもいるのに、 ____みんなはもう悪霊じゃないじゃない、 ____やっと(おさ)から解放されて、 ____やっと自由になれたのに、 ____それなのに滅するの? ____納得がいかないよ、 ____可哀そうだよ、そんなのヤダよ……! 僕じゃない僕の声は、僕が言えなかったすべての事を言葉にしていた。
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