第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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僕は【僕】にどう声を掛けたらいいか、それが分からないでいた。 四つん這いで蹲り、床を叩く【僕】の下では、振動なのか光る珠がゆっくりと転がり始める。 白いだけの小さな真珠は、いつの間にか色をつけ、赤や青、緑に紫、黄に橙……まるでみんなの霊力(ちから)の色みたいだと思ったんだ。 その時だった。 ____あぁ……あぁ……! 【僕】がなんとも情けない声を上げた。 そして床に這いつくばると両手をシャカシャカ動かして、転がる真珠を必死になって集めだしたんだ。 ____ごめんね、ごめんね、 【僕】は何度も謝りながら、すべての真珠を集めると、その上に覆いかぶさりお腹の下にそれを隠した。 色のついた真珠……たくさんあったな。 あれはみんなだ。 数えてないけど、きっと27個あるはずだ。 「………………」 僕は何にも言えなかった。 だって【僕】は僕だもの。 偉そうに説得しようとしたけどさ、言ってる事は理解出来る。 僕だって(・・・・)同じように思ってる。 ____ねぇ、 顔を伏せたまま、【僕】が何かを言いかけた。 「………………なに?」 ____頑張ってよ、 「……………………」 ____どうにかしてよ、 「……………………」 ____キミしか救えない、今しか救えない、……正論なんかクソッタレだ、 「”クソッタレ”って……弥生さんみたいだな、」 ____”クソッタレ”って、こういう時に使いたくなるんだって分かったよ、 「うん、」 ____とりあえず……ペンダント、 「ペンダント? ……これの事?」 首に下げる小さな塊、マーブル模様の霊力(ちから)の珠だ。 これがどうしたの? ____みんなをさ、滅したフリしてペンダントに隠せばいい。そうすれば【闇の道】をごまかせる、 「そ、そうかな? ごまかせるとは思えないけど……それに、ずっと閉じ込めてる訳にはいかないよ。それはそれで可哀そうだ」 ____もう! キミはおバカなの? 隠してる間に何か手を考えるんだ! そんな事も分からないなんて呆れちゃう! 「え……おバカって……僕はキミだよ?」 ____知ってる、僕はキミでキミは僕だ。……お願いだから粘ってよ、足掻いてよ、最初から諦めないでよ。そうじゃないと僕は僕を嫌いになる(・・・・・・・・・)、 小さな声でそう言うと、【僕】はソロソロと顔を上げた。 お腹の下に27個の真珠を隠して、涙と鼻水でキタナイ顔になりながら。 僕はその場にしゃがみ込み、【僕】に向かって手を伸ばした。 生者とも死者ともチガウ、心の中の【僕】って触れるのかな……?  「……あのさ、ゴメン、……僕は、」 【僕】は僕の顔を視て……笑った……? あと少し、もう少しで手が____ ____届く前、僕の身体にドンッと何かがぶつかった。 それはリアルの方の感触だった。 僕は【僕】に触れる事なく目を開けて、途端視界に入ってきたのは…… 『岡村ぁっ!!』 (かける)君だった。 泣き顔の17才は僕にタックルで抱きついている。 この子も涙と鼻水でグチャグチャなのに、ちっともキタナクなってない。 これが若さというものか。 10代と30代の差を、とくと視せ付けられてしまったよ。
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