第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

238/267
前へ
/2550ページ
次へ
みんなを滅さない。 僕の気持ち、僕の決心、そういうの、ぜーんぶ話した。 予想では、戸惑いはするかもだけど喜んでくれると思ってたんだ。 だけどそうはいかなかった。 『岡村、』 神妙な面持ちの中村さんが、静かに話し始めた。 『我々を滅さない、か……ありがとう。岡村はずっとそう思ってくれるんだな。我々は幸せ者だよ。お前にはもう充分救ってもらったというのに、まだ救おうとしてくれる。……ああ、その気持ちだけで十二分だ。なあ、お前達もそう思うだろう?』 ポニテのいぶし銀がみんなの顔を順に視る。 彼らは何度も何度も頷いていた、流れる涙を拭いもせずに。 『岡村は我々を”人”として扱うだけでなく、”仲間”だと思ってくれる。ありがたいな、図々しいが我々もそう思っているよ。お前は仲間だ。だがな、だからと言って滅さないというのは駄目だ。お前にさせるつもりはもうないが、我々は消えるべき罪人だ』 「なんで!? なんで消えるべきなの? そりゃあさ、みんなは元悪霊かもしれない。でもそれは脅されたからだし、(おさ)を倒したよ。(おさ)がいなくなったという事は、未来で起こるはずの惨事を防いだって事でしょう? みんなはこれからの被害者を(・・・・・・・・・)救ったんだ! それでも駄目なの? みんなは救われたらいけないの?」 心の中の【僕】の分まで僕は必死に食い下がった。 『多少なりとも未来の被害者を救えたとしたら、それは霊媒師冥利に尽きるというもの。これでますます心残りはない、』 「中村さん……! そんな事言わないでよ、 お願いだからうんと言って。しばらくは僕のペンダントにみんなを閉じ込める事になるけど、必ずいい方法を視付けるから、【闇の道】から隠し通すから、だから、」 『岡村っ! ……あぁ、すまない、大声を上げた。ありがとう……本当にありがとう、私はお前に出会えて良かった。私はお前が大好きだ。お前が息子だったら良かったと思うくらいに。だが駄目なものは駄目だ。……お前は知らないから、』 「…………何を?」 言葉を止めた中村さんは、血が出そうなほど唇を噛んでいた。 眉間に皺を寄せ、辛そうな顔をして、浅く息を何度か吸って、それでやっと、押し出すように続く言葉を吐き出したんだ。 『岡村は我々が(おさ)と戦ってる姿しか知らないだろう? だからそんな事が言えるんだ。これまで我々は……何人も何十人も数えきれない生者を襲ってきた。中には霊の姿が視える者もいて「やめてくれ、助けてくれ」と命乞いをされた事もある。だのに我が身かわいさで手を緩めなかった。罪なき者に怪我をさせ、絶望のどん底に突き落としたのだ……あんな所業、許されない。我々は滅されるべき罪人なのだよ。罪は償わなければならん』 ガックリと肩を落とし、苦い顔で僕を視た。 ____我々が(おさ)と戦ってる姿しか知らないだろう?  確かにそうだ、それに僕は被害者達を直接知らない。 もしもそれを知ってたら、同じ事が言えるのだろうか……? たとえば僕の両親が、たとえば大福が、たとえば弥生さんが被害に遭ったら、同じ事が言えるだろうか……? すぐに答えは出なかった。 僕はとんだ偽善者なのかもしれない。 だけど……だけど……やっぱり僕はみんなが好きで、仲間だと思う気持ちに変わりはない。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加