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V系さんは眉間にシワをめり込ませ、ボキボキ指を鳴らしながらドカドカ歩いてやってくる。
そして僕を隠すみんなに向かって大声を張った。
『お前らそこどけ! アタシはそこのにーちゃんに用があるんだ! 小僧のクセして喧嘩を売るとは大した度胸! 度胸に免じて祈る時間をくれてやる! さぁ祈れ! 祈った後にボコってやるから!』
えぇぇぇぇ!
”祈れ”って!
それって映画でよく聞くセリフ!
そう言われた悪役は、そのあとガチでボコられるんだ!
「あのっ! その待って! 悪気とかぜんぜんないし! 喧嘩を売ったつもりもないし!」
しどろもどろで弁解したけど、V系さんは止まらない。
みんなはガードを固くして僕を守る気満々だ。
ごめ、みんな、ほんと、ごめん!
『なんだお前ら、そこのにーちゃん庇うのか? だったらまとめてボコってやるよ!』
とうとう傍に来ちゃったV系さんは、そう言って凄みをきかす。
てかなんだこの霊、めちゃくちゃ短気だ。
や、そりゃあ僕が悪いけど、それにしたって短気すぎ!
とそこに、僕らのポニテのいぶし銀、中村さんが前に出た。
『待ってくれ、今のは確かにこちらが悪い。だが許してやってくれないか? うちの岡村は霊力者だが目が特殊なんだ。目視だけでは生者と死者の区別がつかん。霊力を放ち、岡村と繋がれば死者、繋がらなければ生者。視分ける為には毎回これをしないと駄目なんだ』
そう言われたV系さんは、
『あ、そういやそんな話を聞いたような、』
え、誰に?
頭に疑問が浮かんだけれど、中村さんのナイスな取り成しのおかげをもってV系さんはヒートダウン。
こ、これは謝罪のチャンスだ!
「あの! すみませんでした。さっきの放電、うちの中村さんが言った通りなんです。僕は霊媒師だけど新人で、生者と死者の視分けがつかない。それで毎回放電するんです。あなたがどっちなのか知りたかった。だけどすみません、腕、痛かったですよね」
みんなの背中をすり抜けて、V系さんの前に出て、顔はまともに視れないけども、すみませんと頭を下げた。
正体不明のガラの悪い女性だけども、不思議な事に嫌な感じはしなかった。
それどころか……信じがたい事だけど、ヘンテコな親近感さえ湧き上がる。
だからだろうか、僕は素直に謝れたんだ。
とはいえ相当怒ってる。
きっと1度の謝罪じゃ許してくれないだろうと思っていたのに、その予想は裏切られた。
V系さんはガハハと笑い、
『お、ちゃんと謝るのか。わかった、許す!』
とアッサリ許してくれた。
え、いいの?
あんなに怒っていたじゃない。
許してくれて嬉しいけれど……なんだろ、すっごく調子が狂っちゃう。
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