第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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そんな試合があったんだ。 いくらプロでも男女じゃ力に差があるだろうに。 本当にショーとしての試合だったんだな。 『アタシは不貞腐れてな、『毎日血反吐吐く程練習したのは見世物に出る為じゃない』って。そしたら大和は『納得出来ないなら戦わなくていいよ。でも帰っちゃ駄目だ。スタッフさんに迷惑がかかる』、『は? じゃあ見世物に出て、戦わないで突っ立ってろって言うのかよ!』そうブチギレたんだ。そしたら大和は『全ラウンド私が戦う。キミは後ろで突っ立ってればいい。私が出しゃばったコトにするんだ。それなら丸く収まるだろう?』って……ああ……ああ……もーーーーーー大好きだーーーーーー!!』 朋さんは頭を抱えて絶叫した。 レ、レスラーって激しいな、オイ。 『アタシが言ったのはただのワガママ。名も無い新人に集客力なんてない。新人は試合に出なけりゃ稼げない。ジムはさ、アタシでも出られる試合を必死になって取ってきてくれたんだ。それに文句を言うなんて何様だって話だよ。普通そんな女と組みたくねぇよな。大和は怒ったって良かったんだ。なのにさぁ……一言も責めやしない、ニコニコ笑って任しとけって言ったんだ。大和って鬼みてぇに強いのに普段は穏やかで言葉遣いも丁寧で……もう惚れた。結婚したいって思った。そこからずっと追っかけまわした。付き合ってくれなきゃ、結婚してくれなきゃ有刺鉄線デスマッチに出てやるって脅した』 えっと、そこは”死んでやる!”じゃないんだ。 「すごい脅し文句ですね、レスラーならではだ」 『うん、でも大和にはよく効いたよ。それからすぐ付き合うようになって、そしたら毎日幸せで、溢れるパッションを試合にぶつけて数年経って、無名のアタシはヒールの女王になっていた。ホントはな、アタシの売り出し方はヒールじゃないはずだったんだ。ショーの試合で全ラウンド大和が戦って、その時アタシは腕を組んで黙って見てた。その印象が強くって、それでヒールに転向したんだ。これもみんな大和のおかげだ。結婚してからも幸せだったよ。なんたって誠が生まれた。アイツ、本当に可愛くってさぁ。大和と誠、こんなイイ男達と家族だなんて最高だって思ってた。……でも、アタシ死んじゃったんだ。もっと一緒にいたかったのに、大和と誠といろんな所に行きたかったのに、子供ももっとほしかったのに。……あー情けない、ドジ踏んだわ』 テヘ、失敗! なんて自分でオデコを叩いてるけど、辛かっただろうな。 「朋さん、今からでも会いに行ったらどうですか? 大和さん、僕にも言ってました。「私は今でも妻が大好き」って。大和さんも喜ぶと思うけど」 本当に、本当に喜ぶと思う。 もしかしたら大和さん、泣いてしまうかもしれないよ。 『……うん。考えてみる。もう随分年も取ったしな。今更再婚もないかもしれねぇ。あ、でも大和は毎年アタシに会いに来るんだ。初めて会ったW県までさ。つったって大和にアタシは視えないけど、それでも来るんだよ。それで……2人で散歩した海で、何にもしないで一日座ってるの。晴れの日も、雨の日は傘をさして。アタシもさ、その日は仕事を休んで一緒にいるんだ。隣に座って、ポツポツと大和が話してくれるの聞いて。……あ、誠には言うなよ。大和、内緒にしてるみたいだから」★ ★大和がW県に行ってくると誠に伝えるシーンがココです。 https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=1099&preview=1
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