第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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出発の時間がせまる。 これから準備が出来次第、みんなは黄泉の国へ逝く。 準備と言っても荷物がある訳でなく、みんなは先代と瀬山さん、そして大福を取り囲み、また会えるけど、お礼と、一時の別れの挨拶をガチ泣きでしていた。 今回、光る道は呼ばない。 惑星単位の瞬間移動スキルを持つ朋さんが、27人、全員まとめて連れて行くのだと言う。 僕はてっきり、被害者の方々への謝罪が終わってから黄泉に逝くものだと思っていたんだ。 だけど、 『コイツらは二度と悪霊には戻らねぇからよ。だったらいつ連れてったって一緒だろ』 朋さんは一度信用したらとことん信じるのだと言っていた。 あはは、まったく。 この親子はなにからなにまでそっくりだ。 『岡村、』 少し震えた優しい声、中村さんが僕を呼ぶ。 一つにまとめた白髪のポニテは少々乱れて……うん、戦い、激しかったからね。 「中村さん……僕ね、みんなが消えないでいてくれるのがすごく嬉しいです」 えへへ、なんて笑ってみたけどダメだ。 涙がダーダー流れてくる。 『ありがとう、おまえの……お、おかげだ…………、あぁ、いかんな。話せない、話せば泣けてくる、』 中村さんはグシャグシャに顔を歪ませていた。 目元も、口元も、どこもかしこも。 「な、中村さん、瞬間移動を覚えたら、……僕に会いに来てくれますか?」 『…………ああ、もちろんだ、』 「えへへ……良かった、僕も頑張りますよ。霊視とか口寄せとか……基本的な事、まだまだ出来ないから、地道にコツコツ練習します」 『ああ、ああ、』 「あと自分の弱点、うっかり、喋らないようにしなくっちゃ」 『そうだ、気を付けろ、絶対に言うなよ、お前は気を抜くと喋ってしまう、心配だよ』 「はい……はい、がんばります」 『岡村……本当に……ありがとう、お前に会えて良かった、お前に救われた、感謝してもしてもし足りない……ああ、駄目だな、またいつか会えるのに、分かっているのに、』 中村さんの目から溜まっていた涙が零れ落ちた。 一度落ちればとめどない。 後から後から溢れてくる。 だけど僕も一緒だよ、(ここ)に来てから泣いてばかりだ。 最初は悔しくて、悲しくて、辛くて泣いていた。 それがどう?  今は嬉しくて泣いている。 みんなが前を向いてくれた、在り続けようとしてくれる。 「中村さん、霊体(からだ)に気を付けて頑張ってくださいね。特殊部隊の仕事、応援してます。大丈夫、だってみんなは強いんだもの。僕の自慢の仲間達。新人の僕なんかが入れてもらえて、勉強になったし嬉しかった。ありがとうございます。……また、また絶対に会いましょう。僕は……僕は……」 あと一言、みんなの事が大好きです。 そう言いたいだけなのに、感極まってうまく声が出せずにいた。 中村さんは言葉の続きを待っていてくれたけど、……ああ、この(ひと)、意外と気が短かったんだな、知らなかったよ、……だって、だってさ、中村さんは続きを聞く前、中々言えない僕に焦れて、もういいやとでも言いたげに、僕をしっかり抱きしめたんだ。 あはは、苦しい、これじゃあ続きが言えないや。 だから仕返し、中村さんを同じくらい抱きしめた。 ポニテのいぶし銀は嗚咽を漏らし、いつまでたっても離れようとしなかった。 ゴツゴツの霊体(からだ)は氷のように冷たくて、それは魂が確かに此処にあると示してくれるものだった。
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