第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆  出発準備が整った。 みんなは朋さんを中心に扇の形に並んでる。 いよいよだ。 『ジョージは帰らなくていいのか?』 朋さんが聞く、帰るなら一緒に連れてくがという意味らしい。 『うん、大丈夫。帰りは平ちゃんが戻してくれるから。もう少しだけ現世にいるよ。佐知子に”ごめんね”って、”おみやげ持って帰るからね”って伝えてくれる?』 瀬山さんは優しく笑ってそう答えた。 佐知子さんって奥様だ。 瀬山さん、まだ現世(こっち)にいてくれるみたいだし、後でどんな女性(ひと)か聞いてみよっと(照れて答えてくれないかな?)。 『オッケー伝える。モッチー、大福、エイミー。コイツらの入国手続きが終わったら、謝罪行脚でまた現世(こっち)に戻ってくる。時間があったら会おうぜ』 ぱぁぁぁぁ! そか!  みんな一旦戻ってくるのか! とはいえ試算で2年かかる謝罪を1年でまわると言ってたからな。 そうそう会ったりは出来ないかも。 でもいいの、消えないでいてくれるなら、元気でいてくれるなら。 『よーし、お前ら!! そろそろ逝くぞっ!!』 ウゥッス!!! 野太い声が重なってみんなの顔が引き締まる。 ん……でも少し緊張してるみたいだな。 『アタシの傍を離れるなよ。離れたら宇宙のど真ん中に放り出されるからな、ん? ……ランナー、お前なにしてんだ? 離れるなとは言ったが手は繋がなくても大丈夫、……ま、繋いでても良いけどよ』 あらら、苦内(くない)を持てば手練れなのにねぇ。 宇宙のど真ん中で……の下りで怖くなったらしい。 で、そろそろ逝くのかと思ったら、 『あ、そだ。出発前にやっとくか』 まるでイタズラ娘の顔だった。 社長みたいにニヤリと笑った朋さんは、印も無しに霊力(ちから)を発動。 それはどこからともなく現れた。 砕いたルビーに良く似たモノ。 赤くキラキラ、細かに光る小さな欠片がふわりふわりと宙を舞い、やがて男達の胸に集まる。 皆で揃いの”瀬山の制服”、白いシャツにグレイのパンツ。 シャツの胸には六芒星の刺繍があって、欠片は星に付着した。 なんだろう? そう思って眺めていると、欠片は溶けてシャツに馴染む。 やがて欠片はその形を整え始め、10を数えるより早く星の刺繍をリンゴの刺繍に上描きした。 『これは……』 男達は顔を下げ、それぞれ刺繍を視つめている。 朋さんはガハハと笑い、 『どうだ気に入ったか? ウチの部隊のマークだ! 黄泉の国(むこう)に逝ったら隊服があるけど、これもカッコ良いだろ?』 そう言ったんだ。 この瞬間、みんなを縛り続けたもう一つのモノ。 ”瀬山の家”から解放されたのだと、僕はそう確信した。
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