第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「……逝ったんだ、みんな……黄泉の国へ……あは……あはは……良かった……本当に良かった……」 腰が抜けそうだ。 僕はその場にペタンと座り、空を視上げていた。 ____そこから黄泉まで移動は一瞬!  ____瞬き一つで到着だ! 朋さんはこう言っていた。 という事は、もう黄泉の国に着いているのだろう。 みんなの新しい未来の始まりだ。 良かった……嬉しい……! 朋さん、みんなの事、どうぞよろしくお願いします。 『岡村君、』 『岡村さん』 『うなぁん』 僕を呼ぶ声、視上げればニコニコと笑う2人と1ニャン。 「先代、瀬山さん、大福……みんな、逝ってくれましたね」 『うん、良かったですよ』 『これから忙しくなりますね』 『なごなごなご』 賑やかな朋さんと27人の手練れ達。 みんなが急にいなくなり、山は随分と淋しくなってしまった。 咲き溢れる百色華(ひゃくしょくか)は薄青に揺れている。 「あ……そうだ、黄泉の国に逝く寸前、最後にみんな『だんだん』って言ってたんだ。あれってどういう意味なんだろ? それともアレかな、何か言いかけてた途中なのかな? 先代達なら分かりますか?」 ダメ元で聞いてみた。 だんだん……この後に何か続いたのかな? だんだん、おなかがすいてきた、とか。(そんなわけないか) 僕の質問に先代と瀬山さんは顔を視合わせた。 やだ、またクイズだったらどうしようなんて思っていたけど、今回はアッサリと教えてくれたんだ。 『ふふふ、東京に住む岡村君には分からないよねぇ』 そう言った先代はふにゃりと笑う。 瀬山さんもおんなじで、 『私と平ちゃんは2人の時によく使うよねぇ』 と口元を緩ませる。 なんだろ、どういう意味だろとドキドキしながら待ってると、先代が言ったんだ。 『んふふ、さっきのは島根の方言。あのね『だんだん』っていうのはね、『ありがとう』という意味なの』 え……ありがとう……?  ありがとう……ああ、そうか。 『だんだん』はそういう意味だったんだ……ありがとう……か、僕の方こそ……だんだん、だよ。 『きっとみんなは、もう移動がかかってしまう、けど、それでも最後に”ありがとう”と言おうとして、つい地元のコトバが出たんじゃないかな』 瀬山さんはそう言いながら、目にかかる僕の前髪をどかしてくれた。 『岡村君、よく頑張りましたねぇ』 『岡村さん、みんなを救ってくれてありがとう』 優しい顔で、優しい目で、優しい口調で、2人の言葉が心に染みる。 「ううん、ううん、僕の方こそ……助けてくれて、教えてくれて、朋さんに話してくれて、本当にありがとうございました。……大福もありがとう。みんながいたからうまくいったんだ」 修行、来て良かったな。 色々あったけど、大変だったけど、それでも来て良かったよ。
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