第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

4/285
前へ
/2550ページ
次へ
ほかのみんなにバレないように、俺はコッソリため息を吐いた。 だけどさ、それをボスに視られてしまったんだ。 『どうした? ため息なんかついてよ』 『え、……と、別になんでもない。ただちょっと……ああ、うん、黄泉の国ってすごいなぁって驚いただけだよ』 なんて……ごまかした。 本当の事は言えないよ。 黄泉には”金”というものがないから、特殊部隊で仕事をしても給料は出ない。 それを聞いてガッカリしたなんて言えるはずがない。 本来俺は、黄泉に来れる資格がないのに、岡村と瀬山さんと持丸さんと猫に救われた。 それでボスに拾ってもらって……そう、奇跡が起きてココにいるんだ。 まだ働いてもいないのに、着いて早々給料のコトを考えてたなんてバレたらさ、きっと怒られる、呆れられる。 もしかしたら不真面目だってクビになるかもしれない。 俺だけがクビになるならまだいい、もしこれでボスが怒って、ほかのみんなもクビなんて事になったら……だめだ、絶対に内緒だ。 そもそも……よく考えたらさ、もし給料があったとしても、黄泉の金をどうやって現世に送るんだ。 霊力(ちから)がなければ金は視えない、視えない金は使えない。 ボスは俺の答えを聞いて少しだけヘンな顔をした。 もしかして……なにか気付かれちゃったのかな、ダイジョブかな、ちょっと胸がドキドキする。 『ふぅん、驚いただけなら良いんだけどよ。まぁなんだ。もし、なにか思うコトがあるなら遠慮なく言え。なんたってアタシらは、この先最低でも百年は一緒にいるんだからよ。腹割って行こうぜ、そんでよ、』   それはボスの話の途中だった。 突然、戸惑うようなみんなの声とたくさんの高い声が聞こえてきたんだ。 ____あっらーーーっ! イイオトコがこんなにいっぱい! ____アンタ達、全員地球人デショ! ____なに? なになに? 照れてるの? カワイイじゃない! ____んもっ! オドオドしちゃって! ____もしかして黄泉に来たばかり? ____だったらイロイロ教えてあげるわぁ! ____これから一緒に食事して……それでその後、 ____ムードの良い所でボクシングなんてどうかしら……? 振り向いて、みんなの方を視てみれば……えぇぇっ!? イチ、ニィ、サン、シイ、ゴ、5頭のカンガルーに絡まれてるトコだった。 『ボボボボス! カンガル、カンガルがいる! あのカンガルー達も宇宙人なのか? あ、でも日本語喋ってる、てことは地球人? いや日本人? いやいやカンガルだし! え? え? えー!?』 なにがなんだかわかんない! カンガルー達は揃ってオシャレな服を着て、帽子やリボンで着飾っている。 腕も胸も筋肉がスゴイけど、日本語喋るしニコニコしてるし、動物園にいるカンガルーとは別のような気がしてならない。 というか、みんなを食事に誘ってる! カンガルーってああ視えて草食だっけ? って、そんなの今はどうでもいっか! 『あいつらどうやら、カンガル族のオネエサマ方に気に入られたみたいだな。どうすっか、助けに行くか、いやでも、んぷっ! オモシロイから放っておくか。眺めててもいいんだけど……んぷぷ! カンガル族はモノホンの戦闘民族だからな。とりあえず今日は黄泉の初日だしトラブルは避けた方がいいだろ。しょうがね、助けに行くか。ランナー着いて来い』 ボスは半分笑いながら、助けに行くぞと歩き出した。 俺もその後を追う。 カンガル族? 戦闘民族? やっぱり宇宙人なのか……!
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加