第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『いや、その、我々は、えっと、』 中村さんはテンパッていた。 グイグイ迫るカンガル達にしどろもどろになっている。 他のみんなは中村さんの後ろに隠れ、目を真ん丸にさせていた。 わ、わかる……俺だってびっくりだ。 5頭のカンガル達は『ほら早く行きましょうよ』とぶっとい尻尾をブンブン振って、それがカンガル同士でぶつかるもんだから、さっきからゴチッ! ゴッ! と鈍い音がしてるんだ。 尻尾、さわってみたい。 ボスは笑いを堪えて大股で歩いていくと、中村さんとカンガル達の間に割って入った。 『はいはいはい、どーもどーも。やあ姐さん方、久しぶりだな!』 親し気なボスの挨拶。 知り合いなのか?  『『『『 あらっ! 朋美じゃない!』』』』』 どうやらそうみたいだな、ボスを”朋美”と呼んでるし。 ボスは背中にみんなを隠して(隠れてないけど)カンガル達にこう言った。 『悪いな、姐さんら。コイツらついさっき黄泉に到着したばかりなんだ。これから入国手続きをしなくちゃなんねぇ。だから食事はまた今度だ』 カンガルーの姉さん達は……って、俺から視たら、姉さんなのかオバサンなのか、それどころか男か女かも分からないけど、とにかくボスはウマイコト言って食事の誘いを断ってくれたんだ。 後ろのみんなは(特に中村さん)、ホッとした顔だ。 『んま……これから手続きじゃあ、食事は無理ねぇ』 姉さん達はションボリと肩を落とす、ボスはその肩をベシベシ叩く。 『つーコトでまた今度誘ってくれ! ただ、コイツらもしばらくは忙しい。誘ってくれても中々行けないかもしれねぇから、そん時は許してくれよな!』 あ、そか、そうだよな。 これから俺達は被害者の人達に謝りに行くし、特殊部隊の訓練だってある。 遊んでるヒマはない。 『あらそう……残念。でもいいわ、楽しみはとっておきましょ。忙しくなくなったら、その時はみんなでお食事しましょうね! ……ん、だけどなんでそんなに忙しいの? 今日来たばかりなんでしょう?』 赤いリボンの姉さんが首を傾げてそう聞いた。 ボスはそれにニヤリと笑うと、 『なんでかって? そりゃあよ、これから地獄の訓練が待ってるからだ。姐さんらに言ったっけ? アタシ昇級したんだよ。だから来月からは隊長だ! で、コイツら全員アタシの部下。改めて挨拶に回るつもりだけどよ、いろいろ教えてやってな、仲良くしてやってな』 そう言って頭を下げた。 ボス……俺らの為にそんなコト言ってくれるんだ……(おさ)とぜんぜん違うんだな。 『もちろん仲良くするわよぉ! それより朋美! アンタ隊長さんになったのぉぉ!? すごいじゃなぁぁい! 頑張ったわねぇ、おめでとうを言わせてもらうわっ! みんな、いっせいのでお祝いするわよ!』 それは一瞬だった。 あっ! と驚き止めるヒマもないくらい。 なんでそうなる、カンガルーの姉さん達は『congratulations(オメデトウ)!』と口々に言いながらボスを囲んでハイキックをかましたんだ!
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