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『ボスッ!!』
思わず叫んだ……が、カンガルー達の真ん中で、ボスは霊体を低くして、両腕と片脚を器用に使ってすべてのキックをかわしていた。
すごい……囲まれた至近距離。
俺ならきっと全部は無理だ、一発くらいは喰らってる。
そこからみんなの動きは早かった。
中村さんと杉野っち、大上さんと長澤さんと林さん。
5人はそれぞれ1頭ずつのカンガルーを羽交い締め、ボスに怪我がないかを聞いていた。
『大丈夫だ、怪我はない。このくらい避けられなきゃレンジャーなんか務まらねぇよ』
とりあえず良かった……でもさ、姉さん達、ボスと仲良しじゃないのかよ。
いきなり蹴るとかどうかしてる。
隊長になったって喜んでたはずなのに。
その姉さん達は後ろから押さえられ、抵抗するとか文句を言うとか思っていたのに、そうはならなかった。
カンガルなのにほっぺを赤く、照れたようにこう言ったんだ。
『やだ……積極的なのね。きゃっ』
『ボクシングもまだなのにハグだなんて……ズキュン』
『しかも後ろから……ロマンチック』
『もういいわ、このままお付き合いしましょう。ヨロシク』
『ううん、面倒だから結婚よ。誰かローキックしてちょうだい』
えぇ? なんで照れる? なにを言ってる?
意味がさっぱり分からない……この流れで結婚って……なんかの暗号か?
ボスは暗号が分かるのか、慌てた様子もなく俺らに言った。
『おまえらありがとな。アタシは大丈夫、姐さん達を放してやれ。ははっ! まあ驚くよな、来たばっかでわかんねぇよな。今のキックに悪意はねぇ。むしろ逆でお祝いだ。『congratulations!』って言ってただろ?』
ん! そういえば言ってた!
でもさ、おかしくないか?
だっておふざけじゃない、かなり本気のキックだった。
俺もみんなもポカンとしてて、ボスはおかしそうにゲラゲラ笑い、そして教えてくれた。
『あのな、姐さんらは”ダイテ星”の”カンガル族”。カンガル族は戦闘民族なんだ。カンガル族の文化として、お祝い事にはキックをするってのがある。結婚したらローキック、それ以外はハイキックだ。今のはアタシの昇級を祝ってくれたんだよ』
おぉ!
そういう事だったのか!
だからハイキック、なんだみんな優しいじゃん!
『ちなみにな、さっき姐さんらが言ってたコト。”ボクシング”ってのは愛の告白だ。ははっ! おまえら相当気に入られたな、結婚式には呼んでくれ! つーコトで姐さん方、祝ってくれてアリガトな! アタシらはそろそろ行くよ!』
またねぇ!
両手と尻尾をブンブン振って姉さん達が見送ってくれた。
俺らもブンブン手を振って、それでそのあと笑うボスが言ったんだ。
『いやぁ、着いて早々カンガル族じゃあビックリするよな。でもよ、カンガル族だけじゃねぇ。黄泉にはたくさんの霊がいる、その分だけアタシらとは違った文化、違った考えがあるんだ。特殊部隊の訓練は戦闘だけじゃねぇ。各星、各民族の文化もすべて覚えてもらう。言っておくが”徐々に”じゃねぇぞ、”早急に”だ。1日1回テストもあるからそのつもりでな。んじゃー行くぞー。レッツ手続きー!』
赤い髪をふぁさーとさせて、ボスは大股で歩き出す。
俺らは行き交うヒトをよけながら、その背中を追いかけて行ったのだ。
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