第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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全部で28人。 こんなに乗ってもギュウギュウにならない。 広くて大きなエレベーターがどんどん上にあがってく。 床も壁も扉も全部、ガラスで出来た箱だから、下を視れば大きな街が一望できた。 街の北側、そこは広大な草原で、たくさんの大きな木と百色華(ひゃくしょくか)が咲き溢れていた。 上から視ると赤や青、黄色や橙、緑に紫。 あらゆる色がゆるやかに移り変わるのが分かる。 そんな景色をぼーっと眺め、上に行くにつれ、俺達は無口になっていった。 たぶん、みんな同じ事を考えている。 夢のようなこの世界、山とのギャップがありすぎる。 楽しんではいけない。 楽しいと感じたら、いつしかそれに慣れてしまったら、万が一、罪の意識が薄くなってしまったら……それがとっても怖かった。 黄泉の国に来て本当に良かったのかな。 でも決めたんだ、俺達はこれから特殊部隊に入る。 それで……今までの罪を、悔いる気持ちを、この魂を、これからは誰かを助ける為に使う、そう決めたからここにいる。 気を……引き締めないとだな。 チン、 キレイな音がした。 同時、エレベーターの扉が開く。 目の前には長い廊下、その先には分厚そうな茶色い扉があった。 『よーし、これから入国手続きすんぞー。このフロアーは特別ルートで入国が許された(もの)専用の受付だ。一般の死者は1階から10階の総合窓口で受け付けるんだがな、お前らはコッチだよ』 それって……ああ、そうか。 俺達が元悪霊だからって事だよな。 本当なら地獄送り、【闇の道】に乗るべきだった。 ボスの後ろを歩く俺達は、ますます無口になったんだ。 それを気にする様子もないボスは『あ、そうそう、』そう呟いて、俺達に振り返った。 『この時間、アタシらの他に誰もいねぇからよ。気楽に手続きすりゃあいい。受付の担当者も地球人、しかも日本人だ。怖がるこたぁ何もねぇよ』 日本の(ひと)が手続きしてくれるのか……俺はちょっとホッとした。 誰にしてもらっても良いんだけど、さっきのカンガル族の例がある。 文化の違い、そのせいで知らずに失礼な事をしたら大変だからな。 長い廊下も突き当り、ボスは乱暴にノックをすると『入るぞー!』とドアを開けた。 中は____ すごく広い部屋だった。 何畳あるんだろ、いや、何畳なんてモンじゃない。 部屋は野球場くらいの広さがあった。 天井もうんと高くて、これきっと、霊体(からだ)の大きな(ひと)でも入れるようにしてるんだろうな。 ただ何もない。 テーブルも椅子も、なんにもだ。 そのだだっ広い空間に、1人の女の(ひと)が立っていて、ボスを視ると大きな声で言ったんだ。 『朋美ーっ! ひっさしぶりだなぁ! 元気だったか? って、ユーレーじゃあ風邪すら引かないけどなっ! あはははは!』 わ……なんか、すっごく元気な(ひと)だ。
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