第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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アチッ! 猫舌なのかボスは慎重にコーヒーを飲んでいる。 一口すすって、フーフーしながらボスが言った。 『ああ。アタシが教える。つったって、コイツら全員元霊媒師だ。霊力(ちから)の使い方やらモノの構築は教えなくても分かってるからな。その説明が無いだけでも随分楽だよ。で、とりあえず訓練やらなんやらは明日から始める。今夜は親睦も兼ねて全員でメシでも食おうと思ってるんだ。ぐっさんも来るか?』 『あー、悪い。今回パスだ。今日は旦那の誕生日だからな。祝ってやらないと暴れ出す』 『そりゃヤバイな。なんたって旦那は全長16メートルの巨大ウサギだ。あの図体で暴れられたら特殊部隊に出動要請がかかる』 『だろ? ウチのウサちゃんは視た目はカワイイんだけどな。趣味は洗濯だから助かるし』 『あはは、いい旦那じゃん。おめでとうって伝えてくれ。じゃあアタシらは行くよ。 お前ら聞いてただろ? 今夜は親睦会だ! 何か食べたい物はないか?』 ボスはクルっと振り返り、いきなり俺らにそう聞いた。 親睦会……か、ありがたいけど、でも……さっきまでの和やかムードから一転、俺達は答えられないでいた。 暫しの沈黙、だけどいつまでも返事をしない訳にはいかない。 こんな時、最初に動くのはいつだって中村さんだ。 『あの……ボス。お気持ちだけありがたく頂きます』 『なんだよ、親睦会イヤだったか?』 『いえ! 嫌だなんてそんな事……とてもありがたいです。ですが我々は黄泉に遊びに来たのではないのです。この先、魂をかけて特殊部隊の任務をこなしたいと思っています。その為には訓練あるのみ。1秒だって無駄には出来ない。それに……我々は罪人だ。人並みに何かを楽しむなぞ……許されない』 中村さんは絞り出すようにそう言った。 俺らも同じ気持ちだ。 ボスは困ったようにため息をつく、ああ……せっかくの優しさなのに……本当にごめん。 沈黙が流れた、気まずい空気にもなった。 それを突き破ったのは……ぐっさんだった。 『アンタら元悪霊だっけ? 調書読んで知ってるよ。なんだよ、罪を悔いた元悪霊は、これからずっと俯いて暮らさないといけないのか? だったらウチもだ。今夜の旦那の誕生会、中止にしなくちゃ』 え……? それどういう意味……? 俺らはまたザワザワしだす、旦那さんの誕生会、なんで中止にするんだ? それってつまり、 『ウチの旦那も元悪霊だ。だけどな人一倍罪を悔いてる。償う為にたくさんの努力をしてきた、今だってしてるよ。最初はな、ウチのもそうやって俯いてたよ。でもさ、それって違うと思うんだよね』 ぐっさんはパチンと指を鳴らすと甘いチョコを出現させた。 それをパクっとひとつ食べると、続きを話しだしたんだ。
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