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陣の光に包まれて、霊体が溶けるような感覚に陥った数秒後。
視界に映る景色が変わった。
高層ビルが乱立する街並が、辺り一面視渡す限りの百色華。
大草原に咲く花々は、赤や青、黄色や橙、緑に紫……と、淡く揺れて時間で色を変えていた。
『ちょ、ちょっと! なんで行き先を変えちゃうの!?』
片手で俺を担ぎながら、白雪は慌てたようにこう聞いた。
なんでって……病院なんざ行きたくねぇし、行く必要もねぇからだ。
頼むから分かってくれ。
『あのな、落ち着け。俺の話を聞け。体調不良じゃねぇよ。霊体が熱くなってるのは一時の熱暴走だ。原因も分かってるし、大人しくしてりゃあ、すぐに戻る』
担がれたままのこの体勢。
白雪の硬い背中が目の前だ。
黒いタンクトップは内側からはち切れそうで、その霊体からは仄かに柑橘系の匂いがする。
『そうなの……? 本当に心配ないの……? こんなに……熱いのに?』
『ああ、心配ない。だから降ろしてくれねぇか?』
『……わかりました。でも一つお願いがあります。降ろしたら、その”原因”というものを教えていただけませんか?』
そりゃ言えねぇ。
当然そう思ったが、そのまま言えば話が長引くだけ。
だから俺は仕方なく、
『分かった。ただ全部は言えねぇ。話せるトコだけな』
苦し紛れにこう言って、やっとのコトで肩から降ろしてもらったんだ。
……が、白雪は半信半疑で曇った表情。
理由を聞いて、納得出来なきゃ病院へ連れて行く、そんなたくらみが笑っちまうほど透けて視えていた。
空は雲一つない晴天だった。
視上げれば風は弱く、エメラルドによく似た色のイルカの群れが、のんびり宙を泳いでいた。
スゥ……クルン、スゥ……クルクルクル、
ゆっくりとまったりと、小さな霊体を回転させて、時折、互いの尾びれをペンペンとぶつけ合っている……
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