第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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道で足を焼かれる俺と、宇宙空間に浮かぶ白雪。 俺達は黄泉に逝く逝かねぇで、不毛な押し問答を繰り返していた。 しまいには俺はキレ、食い下がる小娘を怒鳴りつけてやったんだ。 『しつこい! 俺は黄泉なんざに逝かねぇよ! 小娘はとっとと帰れ! それともなにか? 手ぶらで帰ったらオエライさんに怒られるのか? 知るかそんな事! 勝手に怒られてりゃあいいさ!』 泣き出すかもな、そう思った。 こんなに霊体(からだ)が小さくて、しかも女だ。 俺の咆哮にビビッて然りだ。 だが白雪は泣かなかった。 俺を視上げて、力のある目で言ったんだ。 『失礼ながら、バラカスさんの調査書はすべて拝読しました。確かにあなた悪パンダだわ。生きていてた頃も、死んだ後も。でも……これは私個人の感想ですが、あなたが悪事を働く時、その後ろには必ず理由がありましたよね。あなたはあなたの欲を満たす為に悪事を働いた事は一度だってなかった、』 『………………ほう、』 小娘、ただ単にお使いに来た訳じゃあねぇのか。 俺の今までを知った上でモノを喋ってるのか。 『今は納得出来ないかもしれません。でも、こんなチャンス二度はないわ。あなたが仕事を断れば黄泉の永住権は消え、地獄送りが続行される。お願いです、この仕事を受けてください。文句があるなら黄泉で聞きます。私、あなたの話、ぜんぶ聞くわ』 真剣な目だった。 黒い瞳に煌めく星が映り込み、吸い込まれそうになった。 心が揺れる、差し出すその手を取りたくなる……だが……俺はひねくれ者なんだ。 口だけならなんとでも言える。 調査書は読んだのかもしれねぇが、それより前に、俺を連れて帰らなければオエライさんに怒られるから、それで必死になってるだけかもしれねぇ。 小娘の事情になんざ付き合ってられるかよ。 だったら____ 『分かったよ。仕事、受けてやってもいいぜ。その代わり……小娘が此処まで来いよ。俺は【闇の道】に捕らわれ中だ。おまえと長話をしてたらよ、足の裏が溶けちまってくっついて、動く事が出来なくなった。だから此処に来て、焼ける道に膝を着いて、小娘の手で俺の足を剥がしてくれや』 ケケケ!  どうする? なんて言い訳する?  初めて会った悪霊の為にテメェの足を焼くなんざ、誰もそんな事出来やしねぇよ。 何が”話を聞くわ”だ。 俺の本当の話、俺の本当の言葉、そういうのは俺を心から理解してくれる奴にしか言わない主義だ。 小娘なんぞにこの俺が、 『…………やだ! 私ったら気が付かないでごめんなさい! 足が動かせなかっただなんて……それじゃあコッチに来たくても来れないわね! 待ってて、すぐに剥がしてあげる!』 え……!? ちょっと待て、そう言おうとしたのに遅かった。 慌てた顔で恥ずかしそうに、俺に謝る白雪は『ふんぬっ!!!』の気合いを入れた次の瞬間、道の上に飛び乗った。
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