第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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パニックが加速する。 俺はそのせいで自分の足がドロドロに溶けてる事も、骨が剥き出しでひどく痛む事もすっかり忘れていた。 とにかく小娘の足を治療してぇ、それだけで頭はいっぱいだったんだ。 だが再建方法がどうやっても思い出せねぇ。 俺は俺の頭をドカドカ叩いて記憶を取り戻そうとした、____と、その時。 突如、白雪が俺の腹にしがみついたんだ。 『バラカスさん、落ち着いて。私は大丈夫です。足は黄泉の国に戻ればすぐに再建されます。黄泉にはオートリカバーがあるんだもの、このくらい一瞬で治るわ。バラカスさんだって足が溶けてる、痛むでしょう? さぁ、早く黄泉に逝きましょう』 額に汗を浮かべながら。 視上げるその目は星々よりも美しく、どこまでも澄みきっていた。 こんなに綺麗な目は視た事がねぇ、視つめられると時が止まっちまいそうだ。 それと……ああ、良い匂いがするな。 爽やかで、それでいて懐かしい。 白雪からほのかに香る柑橘系は、俺の心をスゥっと静めてくれた。 『小娘が言うオートリカバーってのは傷を治すんだな? それが黄泉にあるんだな? …………分かった、今すぐ黄泉に逝こう、』 黄泉に逝こう、俺の口から自然に言葉が滑り出す。 それを聞いた白雪は嬉しそうに笑うと、『うん』と大きく頷いた。 …… …………俺の好みとは真逆な白雪。 全身ツルツル、毛は頭だけにちょろっとだ。 腹回りは引き締まって豊満さが足りねぇし、手足は(ねげ)ぇわ、シルエットは丸くねぇわ、それどころかゴツゴツに逞しい、……第一な、まったく色っぽくねぇんだわ。 それでも俺はあの瞬間、白雪に落ちた。 口だけじゃねぇ、態度と行動で優しさを示す女。 それからすぐに黄泉に逝った。 白雪の足を治すならそれが一番確実だからだ。 黄泉のオエライさんは気に入らねぇが、白雪はものすごく気に入った。 だから俺は、そのまま黄泉の国の住人になったんだ。 ま、9999台のサーバーを構築しろだの、黄泉の国に役立つ何かを作り出せだの、無茶な仕事は振られたが、そんなモンは朝笹前だ。 白雪と同じ黄泉にいられるんなら何だってしてやるさ。 黄泉での生活が始まって、元悪霊の俺にビビるまわりの奴ら。 そんな時も白雪は言ったんだ。 ____バラカスと仲良くしてあげて、 ____悪かったのは昔の話で今は違う、 ____口は悪いけど、本当はとっても優しいの、 ____私はバラカスが好きよ、 俺の好きと白雪の好きは違う。 それでも俺は白雪が好きだ。 もうかれこれ百年は片想いを続けてる。 想いを伝えようとした事はある、が、白雪はあまりにも鈍感で、伝わった試しが一度もねぇ。
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