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パニックが加速する。
俺はそのせいで自分の足がドロドロに溶けてる事も、骨が剥き出しでひどく痛む事もすっかり忘れていた。
とにかく小娘の足を治療してぇ、それだけで頭はいっぱいだったんだ。
だが再建方法がどうやっても思い出せねぇ。
俺は俺の頭をドカドカ叩いて記憶を取り戻そうとした、____と、その時。
突如、白雪が俺の腹にしがみついたんだ。
『バラカスさん、落ち着いて。私は大丈夫です。足は黄泉の国に戻ればすぐに再建されます。黄泉にはオートリカバーがあるんだもの、このくらい一瞬で治るわ。バラカスさんだって足が溶けてる、痛むでしょう? さぁ、早く黄泉に逝きましょう』
額に汗を浮かべながら。
視上げるその目は星々よりも美しく、どこまでも澄みきっていた。
こんなに綺麗な目は視た事がねぇ、視つめられると時が止まっちまいそうだ。
それと……ああ、良い匂いがするな。
爽やかで、それでいて懐かしい。
白雪からほのかに香る柑橘系は、俺の心をスゥっと静めてくれた。
『小娘が言うオートリカバーってのは傷を治すんだな? それが黄泉にあるんだな? …………分かった、今すぐ黄泉に逝こう、』
黄泉に逝こう、俺の口から自然に言葉が滑り出す。
それを聞いた白雪は嬉しそうに笑うと、『うん』と大きく頷いた。
……
…………俺の好みとは真逆な白雪。
全身ツルツル、毛は頭だけにちょろっとだ。
腹回りは引き締まって豊満さが足りねぇし、手足は長ぇわ、シルエットは丸くねぇわ、それどころかゴツゴツに逞しい、……第一な、まったく色っぽくねぇんだわ。
それでも俺はあの瞬間、白雪に落ちた。
口だけじゃねぇ、態度と行動で優しさを示す女。
それからすぐに黄泉に逝った。
白雪の足を治すならそれが一番確実だからだ。
黄泉のオエライさんは気に入らねぇが、白雪はものすごく気に入った。
だから俺は、そのまま黄泉の国の住人になったんだ。
ま、9999台のサーバーを構築しろだの、黄泉の国に役立つ何かを作り出せだの、無茶な仕事は振られたが、そんなモンは朝笹前だ。
白雪と同じ黄泉にいられるんなら何だってしてやるさ。
黄泉での生活が始まって、元悪霊の俺にビビるまわりの奴ら。
そんな時も白雪は言ったんだ。
____バラカスと仲良くしてあげて、
____悪かったのは昔の話で今は違う、
____口は悪いけど、本当はとっても優しいの、
____私はバラカスが好きよ、
俺の好きと白雪の好きは違う。
それでも俺は白雪が好きだ。
もうかれこれ百年は片想いを続けてる。
想いを伝えようとした事はある、が、白雪はあまりにも鈍感で、伝わった試しが一度もねぇ。
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