第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『はぁぁ……すっごく面白かったぁぁぁ』 延々と数時間。 夜になるまで続けた芸に、笑い疲れの白雪は大地の上に転がった。 タンクトップに迷彩柄の軍パンツ、足元は編み上げ型の軍ブーツ。 髪は短く刈り込まれ、寝転がってもマジョリカみてぇに広がらん。 初めて会った100年前とおんなじだ、色っぽさの欠片もねぇ。 でも俺はこのスタイルが大好きだ。 『あぁ、すっかり夜になっちゃった。面白くて時間が経つのが早かったわ。ソレガシーさん、ごめんなさい。用事があったんじゃないですか? こんなに長くお引止めしちゃった、』 用事なんてある訳ねぇだろ。 あったとしてもキャンセルだ、俺はおまえと一緒にいたいんだから。 『なんのなんのであります。用事なんてナッシング。気にする事はありませぬぞ。吾輩、白雪女史が喜んでくれて感無量でありますよ』 正体がバレないように演じるオタキャラ。 それでこんなに喜ぶんなら、ずっとオタでもかまわねぇ。 『あの、時間は大丈夫ですか?』 聞きながら白雪は半身を起こした。 大地の上に座ったままの見上げる顔が心配そうで、俺は思わず膝を着いた。 『時間なんて黄泉にはあってないようなモノであります、…………その、白雪女史こそ用事があるのでは?』 そうだ、ずっと一緒にいてぇがよ、白雪(こいつ)はいつだって忙しい。 ここは楽園、黄泉の国。 なのにそこまで働かくか? と思うのに、白雪はあまりにも勤勉だ。 帰っちまうのかな……帰るんだろうな。 俺に用事がないのか聞いたのだって、自分が”帰る”と言う為の、キッカケを作りたかったんだろう。 ああ……聞けなかったなぁ。 白雪の気持ち、知りたかったなぁ。 でもいいか……だってよ、楽しかった。 今日はこれで充分だ。 そろそろ帰りますか____そう言うつもりで顔を上げると、俺達は同じ高さで目が合った。 途端、心臓が絞られる。 瞳は深くて小さな宇宙そのもので、クソ……ガラにもなく照れちまう。 俺はなんだか落ち着かなくて目を逸らす……と、逸らした先には短い黒髪。 柔らかそうで艶があって、赤や青の星の光が映り込む。 ああ……綺麗だ。
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