第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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黄泉の国に言葉の壁はねぇ。 それは俺の造った翻訳システムが作動しているからだ。 ____地獄送りを中止して黄泉の国の永住権をやろう、 ____その代わり、 取引だった。 永住権が欲しいなら ”黄泉に役立つ何かを造れ” と、えらく曖昧な仕事の依頼。 俺は考えた末、オートマチックの翻訳システムを造ったんだ。 あらゆる星の言語の網羅。 言語の数だけ時間はかかるが、覚えるコトは俺にとって朝笹前。 覚えてしまえば造るのは簡単だ。 たったこれだけで地獄送りが中止になるのか? 俺は笑いが止まらなかった。 もったいぶって時間をかけて、出来上がったシステムは黄泉のオエライさんを唸らせた。 そりゃそうだ。 それまでは1人に1つ、小さな翻訳機を身に付ける必要があったからな。 だがそれはクソみてぇな代物で、1日何度もバージョンアップをしなくちゃならねぇ。 それをさぼるとバグが起こる。 翻訳がめちゃくちゃで意思疎通が出来なくなるんだ。 俺のシステムは個人で行うバージョンアップは必要ねぇ。 その代わり定期的に俺がやる。 でもよ、それだって数か月に1回だ。 旧システムは日に数度……ケケケ!  何だそりゃ、国を巻き込む高度なギャグか?  造った奴、俺にツラを拝ませろ!  爆笑してやる! ……とまぁ、黄泉の国に言語の壁はねぇ。 あるのは俺のまわりだけ。 自覚はねぇが、俺は口が悪いらしい。 俺が喋るとトラブル頻発。 知らなかったんだ。 バンブー星じゃあコレが普通で、黄泉に来るまで口が悪いと思わなかった。 それに気付いたのは、旧翻訳システムの制作者をとっ捕まえて、爆笑した時だった。 泣き出す製作者、俺の口はノリにノッて止まらない。 それを止めたのは……ま、そうだ、白雪だ。 アイツは遠くから助走をつけて、俺に強烈な飛び蹴りをかましたんだ。 あまりの痛さにコトバが途切れ、その隙に白雪が平謝った。 ____バラカスは口が悪いわ! 白雪に怒られて、だが何が悪いか分からねぇ。 だってよ、バンブー星じゃあコレが普通だ。 言いたい事は遠慮なく言う、言われた相手も遠慮なく返してくる。 それじゃあダメか? それから何度も同じトラブルが起きた。 そのたび白雪が飛んでくる、俺の代わりに頭を下げる、何度も何度も。 さすがに……ちょっと悪いかなって思ってよ。 それで俺のコトバはオープンにしない事にしたんだ。 システムを俺の声で発する言語は、訳さないでスルーするようにした。 訳さずにバンブー星の言語をそのまま相手に聞かせる、……その結果、みんなは俺が『キュゥキュゥ』言ってるとしか認識しねぇ。 そのおかげでトラブルはなくなった。 俺は、俺の言葉を伝えたいと思うヤツだけを選び、そいつらだけが俺の言葉を理解出来るようにした。 数はそう多くねぇがよ、その方が俺も楽だしな。 白雪は、俺が選んだ最初のヤツだ。 誰よりも俺のコトバを伝えてぇ女だからな。
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