第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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恥ずかしがって中々答えない白雪。 答えてほしい俺は、もう一回頼み込んだんだ。 『そんな事はありませんぞ、……女史は、とっても、とっても…………と、とにかく、教えて欲しいのであります! これはバラカス氏にとっても大事なコトなのであります!』 『バラカスにも? よ、よく分からないけどそうなのね。え……え……えっと……もし、本当にそんなヒトがいたらの話だけど…………私なら、言葉を飾らず、ストレートに『好き』って言われたいわ。……ああもう、何を言わせるのよ、恥ずかしー!』 サイリウムのスティックライトを投げ出して、白雪は両手で顔を隠してしまった。 そんな白雪が可愛くて愛しくてたまらねぇ。 コイツはオフとオンにギャップがありすぎだ。 本当はよ、もっとたくさん聞きてぇコトがある。 パンダは恋愛対象になるのか、気持ちに応えられない時、気まずくなってもう会わなくなってしまうのか、そういう事、全部聞いておきたいと思った。 けどよ、ソレガシーの姿でコレをを聞くのは卑怯な気がしたんだ。 白雪にウソをついてまで、己の保身に走るなんざしちゃいけねぇ。 ぶつかって、ダメなら潔く傷付くべきだ。 今、ココロの揺れは完全に振り切った。 怖くないと言えば大嘘だ。 でもよ、このまま ”親友” でいいのか? 気持ちを伝えたいんだろう? たとえ伝えて玉砕されても、ああそうですかと嫌いになんてなれねぇよ。 伝えても伝えなくても好きは変わらん。 100年前、【闇の道】で出会った日から、ずっとお前が好きなんだ。 だったらよ、 『白雪、』 顔を隠す愛しい女の肩に手を置いた。 白雪は驚いたように俺を視る。 そりゃそうか、急に戻った。 ”白雪女史” じゃあなく ”白雪” と呼び捨てだ。 それでもコイツは素直に『なぁに?』と答えてくれる。 黄泉で最強と呼ばれる女なのによ、【光道開通部(こうどうかいつうぶ)】の(おさ)なのによ、威張ったりは絶対にしねぇんだ。 短い髪が夜風にあたり、微かに毛先を揺らしてる。 タンクトップに軍パンツ、霊体(からだ)は鋼の筋肉質だ。 脂肪の足りねぇ腰回りは引き締まって手足も(なげ)え、色っぽさの欠片もねぇ。 だがよ、生きてた頃も死んだ後も、白雪以上に良い女を視た事がねぇ、優しくて強くて綺麗な女。 夜光花は咲き溢れ、夜はまだまだ明けそうにない。 (うえ)を視れば満天の星空が、”踏み出せ” と瞬いているように視えた。 気持ちを伝えるんだ。 『聞いてくれ、……俺は、』 霊体(からだ)を前に、白雪との距離を詰めた。 柑橘の良い匂いがふわっと漂い、頭の中がクラリとする。 白雪は何が起きたかわからずに、戸惑いながら俺を視つめ……その、深い瞳の中には銀髪碧眼のヒト型の男、”ソレガシー” が映りこんで____ ____パンーーッ!! そうだった、今の俺はバラカスじゃねぇ! この姿のまま『好き』だと言っちまうトコだった! イカン、すぐに元に戻らなくちゃだ! だが白雪の目の前で戻る訳にはいかねぇ、戻ればコイツは烈火の如く俺に説教をかますだろう。 怒られるのはいい、それもまたご褒美。 けど今夜はダメだ、話が脱線して気持ちを伝えられなくなる。
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