第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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白雪は眉毛を下げて笑ってる。 言ってきたさ、この100年何度も何度も。 だけどよ、伝え方が悪かった。 俺の勇気も足りなくて、直球を投げる事が出来なかったんだ。 『白雪、』 パンダとヒト、身長差が二人の距離を遠くする。 さっきみてぇに近くがいいや、近くで目を視て、それで。 俺はドカッと地面に座った。 白雪は立ったままで、これで少しは近くなる。 深い瞳に映り込むのはパンダのバラカスだ。 『白雪、』 『なぁに?』 『白雪……』 『ん、なぁに?』 『……白雪、』 『ぷっ! んも、だからなぁに?』 しつこい俺に白雪は吹き出した。 その顔に俺もつられて笑ってしまう。 二人して笑い合って……そしたらよ、緊張が、少し溶けたんだ。 ____私なら言葉を飾らず、 ____ストレートに『好き』って言われたいわ、 白雪は急かしもしないで話の続きを待っている。 俺は息を大きく吸い込んで、それをゆっくり吐き出した。 『白雪、』 『なぁに?』 飾る言葉も遠回しな言葉も必要ない、 必要なのはたったの一言、 『おまえが好きだ』 ____え、 聞こえたのは白雪の短い声、それと星が流れる微かな音だけ。 二人の間に沈黙が流れた。 (うえ)を視れば数えきれない星たちが、斜めに降る雨のように流れてる。 今にもここまで落ちてきそうだ。 その時、黄泉にしては珍しく、強い風が吹いたんだ。 風は白雪の短い髪をかき混ぜて、鋼の背中を優しく押した。 あ、と呟く愛しい女は、霊体(からだ)を大きくよろめかせると俺の腹にぶつかった。 『ご、ごめん、』 慌てる白雪。 真っ赤な顔がぎこちなく上を向く。 その表情は驚きと戸惑いと、それから____ 『驚かせて悪かった、……だが今言ったのは本当だ。俺はお前が好きなんだ。なぁ、白雪。俺の気持ち、これまでのコト、全部聞いてくれるか?』 向き合ったままそう聞くと、 声を出さない白雪は、かわりに何度も頷いた。 『そうか、ありがとう。あのな___』 俺の想いを伝えよう。 100年分じゃあ長くなるかもしれねぇが大丈夫だ。 きっと夜明けはまだ遠い。 (うえ)を視れば流れる星の数々が、 輝きながら斜めの雨を降らせているから。
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