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あぶねっ!
不意に来たお父さんの回し蹴りから僕を守ろうと、社長に突き飛ばされた勢いでバランスを失い、危うく転びそうになる、が、しかし、転倒は免れた。
誰だか小さな身体にぶつかって、結果、僕は支えられたのだ。
「すいません、」
慌てて体制を立て直し振り向くと、そこにいたのはユリちゃんだった。
こんな華奢な女の子にぶつかってしまうなんて、僕は大いに慌てた。
「大丈夫ですか? ケガしてないですか? 痛かったでしょう? ごめんなさい!」
「大丈夫です。ケガもしてませんし、たいして痛くもなかったです。だから気にしないでください。そんな事より、」
言いかけて僕を見上げる彼女の髪にはリボンがまかれていた。
遠目から見た時はカチューシャだと思ってたけど違うみたいだ。
それにしても随分と古そうなリボンだな。
若い女の子の髪を飾るには少々レトロすぎやしないだろうか?
着ている服の新しさから比べると妙に浮いている。
色はあせた青色で、所々退色して白っぽくなってるし。
と、その時。
僕の脳内に割り込むように浮かんだのは幼い日のユリちゃんだった。
____夏の空のような青いリボン。
____それを髪に飾ってもらい満面の笑みで喜ぶ姿。
……あぁ、
……そうか、このリボンはあの日の、
「ユリちゃん、その髪につけてるの……11年前の夏祭りに、お母さんがつけてくれたリボンだよね」
田所さんからもらったリボンを、大きくなったいまでも大事にしているのかと思うとなんだか僕まで嬉しい。
ユリちゃんは指先でリボンに触れながら驚いた顔で僕を見る。
「そうですけど……なんで知ってるんですか? それは……その、」
そして持っていた僕の名刺をチラリと見た。
「岡村さん、ですよね? この名刺に”霊媒師”って書いてあるけど……私の母に会ったって言うのは本当ですか? ……母は11年前に亡くなっています、それでも本当に本当に会ったんでしょうか?」
「うん、会ったよ。ユリちゃんのお母さんとお婆ちゃんにもね。2人ともとても優しい人達だった。それと、それとね、ユリちゃんは本当にお母さんにそっくりだ」
田所さん譲りの大きな目に、ぶわっと涙が溜まっていく。
ユリちゃんは両手で口元を押さえ、肩を震わせている。
泣かせるつもりはなかったんだけど……でも、これは悲しい涙ではないだろうから許してもらおう。
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