第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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◆ 夜のミシレイニアスは昼間以上に賑わっている。 建ち並ぶ巨大なビル、たくさんのお洒落なお店、大きな劇場。 街中に光が溢れ、華やかで、心が躍り、特別な時間が流れる街。 道を行く着飾った霊達(ひとたち)は、皆、楽しそうに笑い合っていた。 おしゃべりしながら歩いて数分。 ウチと白雪ちゃんは街の中心部、ミシレイニアスで1番の高層ビルに着いた。 ここは1階から110階まで、ぜーんぶゴハン屋さん。 黄泉はいろんな星の霊達(ひとたち)の集まりだもん。 食文化は星の数だけある。 このビルに来れば、各星のおいしいものが食べられるから、朝も、昼も、もちろん夜も、いつだって(ひと)でいっぱいなんだ。 『白雪ちゃんはなにが食べたい? ん、なんでもいいの? じゃあ最上階(うえ)の ”フェリーチェ” に行かない? あのお店なら席はぜんぶ個室だもん。落ち着いて話せるよ』 入るお店がすぐに決まって、さっそくエレベーターに乗り込んだ。 偶然、ウチらと一緒に3人のヒト族が乗り合わせ、先に入ったそのうち1人が『何階ですか?』と聞いてくれた。 『110階をおねがいします』 ウチがそう答えると、女の(ひと)はポチっとボタンを押しながらニコッと笑ってくれたんだ。 綺麗で優しそうな(ひと)だなぁ。 視た目はウチらと同じヒト族、黒い髪に黒い瞳……もしかして日本の方かなぁ……? 居合わせた3人は、ボタンを押してくれた若い女性、それから上品そうな年配の女性、それと……ん、それと……ちょっぴり怖そうなお爺さんだ。 背が高くてがっしりしてて、作業着みたいな服を着てる。 女性2人はニコニコなのに、お爺さんはしかめ顔……もしかして怒ってる? ウチはちょっぴりドキドキしながら白雪ちゃんにくっついて、さり気なくお爺さんを観察してたの。 そしたら…… 『貴子、婆さん、やっぱし俺は(けえ)るぞ! レストランだかなんだか知らねぇが、気取ったトコでメシ食ったって旨くもなんともねぇや! 俺はよ、婆さんが作る田舎料理が一番好きなんだよ!』 ひゃあっ! お爺さん、いきなり大声出した! な、なに? 顔はコワイしバラカスみたいに口が悪いし、やっぱり……怒ってるの? 知らない(ひと)だし、どうして良いのか分からないしで、ウチと白雪ちゃんで固まっていると、 『もう! お父さん、こんなところで大きな声出さないで! ご、ごめんなさいね、びっくりされたでしょう?』 若い女性がウチらに謝ってくれたんだ。 お父さん……? というコトは3人は家族なんだ。 フンッ!  おへそを曲げてそっぽを向くコワイ顔……お父さんは一旦横においといて、上品な感じの年配女性、お母さんかな?  彼女も続けてこう言ったの。 『本当にごめんなさいねぇ。うちのお父さん、生きてた頃から短気だし怒りっぽいし口は悪いし……困った人なのよ。でもね、悪気はないの。ただ、田舎の人だから声が大きくて、何でも思った事を口に出しちゃう。おまけに顔は怖いし……ああ、駄目だわ、ごめんなさい。お嬢さん達には怖い思いをさせちゃったわね。 ほら、お父さんもお嬢さん達にあやまりなさい! もし貴子やユリがヨソで、おんなじように怖い思いさせられたら、嫌でしょう?』 白髪の髪を綺麗にまとめたお母さん、だけど中々の迫力だ。 強面のお父さんは、汗を浮かべてタジタジになっている。 なんだろ……お父さん、バラカスっぽいな。
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