第二十一章 霊媒師 ……もいる、黄泉の国の話

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『…………マーちゃん、』 手で顔を隠したままで、白雪ちゃんがウチを呼ぶ。 大きな肩が微かに震えて、なんだかすごく頼りない。 いつもと違うよ、仕事の時とぜんぜん違う____ ____トラブル発生? ____わかりました、すぐに行きます。 ____大丈夫、泣かないで。 ____あとは私に任せてちょうだい。 頼れる(おさ)は、いかなる時も冷静沈着。 決して迷わず、決して動じず、決して感情を乱さない。 トラブルを素早く把握、判断し、正しい決断を下すんだ。 苛立つ事も、誰かを責める事もなく、自分に厳しく(ひと)には優しい。 とてもじゃないけどウチには出来ない。 難しい事なのに、それを100年継続してる。 そんな白雪ちゃんだというのに…… 『マーちゃん……わ、私、どうしたらいいのかしら』 今は感情が乱れっぱなしだ。 ウチは視かねて腰を浮かせて手を伸ばし、テーブル越しに白雪ちゃんの頭を撫ぜた……髪、やわらかいなぁ。 しばらくそうしていると、ちょっとだけ落ち着いた白雪ちゃんは、手をどかせて顔を視せてくれたの。 『わ、私、おかしくなっちゃったのかしら……”愛してる” なんて、お母さんはよく言ってくれるけど、他の(ひと)に言われた事はないわ。まして、家族や友達としての愛情じゃなく、その、こ、こ、恋の気持ちでだなんて、』 顔が真っ赤で目がうるうる。 湖の星の明かりに照らされて、それがよくわかってしまう。 『ん……そっかぁ。ねぇ、白雪ちゃん。バラカスにそう言われた時、イヤだった?』 『……ううん、ううん、びっくりしたけど……イヤじゃなかったわ』 『それなら……嬉しかった?』 『……………………うん、』 『そっか、……うん、そっか』 どうしよ……ウチが泣きそうだよ。 白雪ちゃんの純粋さ、それと、今の白雪ちゃんを視たらバラカスがどんなに喜ぶか……そう思うと鼻の奥が痛くなる。
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